抒情詩に就て
本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
抒情詩の本質と、詩作における感情のあり方を論じる。著者は、世俗的な欲望や官能の描写に走る現代の傾向を、詩の第一義を誤るものとして批判する。真の抒情詩には、性的な衝動を超えた理性や冷静な克己が求められ、神秘的な思想や幽微なる感情の探求こそが、詩の未来を化育すると説く。世相の闇を追うのではなく、真実の感情に拠り、人生の意義を見つめる詩の在り方を提唱する。
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観相をのみ崇みて、ひたぶるに己が心を虚うせむと力むるあり。かくの如くにして得たる書に眼を曝らすものゝ、たゞこれ消閑の為めにして、詩の意義のかたはしをだに解し得ざらむとするも理なり。こゝに世の趣味の卑きを嘆じぬとも、やがてその声の空しかるべきは言ふをも俟たじ。かゝる時に際してかのはかなき抒情詩の他が一顧盻を冀ふに値するや否やを問ふは愚なるべし、そは新しと雖もなほかた生ひの歌なり、こゝろさへ言さへなほいと穉き歌なればなり。幸に一分の進境ありて、世の之を認むるなからむとするも、今遽かに誰にか訴へむ。花香と乳臭と徒らに孰れか多きやの悪を贏ち得て止まむのみ。世はかくまでに寛容なり、殊に識らず、抒情詩人の背にははやく既に荊棘を負はされしにあらじをや。花香を趁ふの童となりて牧童を携ふるに宜しかるべく、乳臭の児となりて琴声を摸ねばむに、絶えて覊せらるゝなきをや。かゝる歓びの再びすべからざるをしも辞まば、そが徳に報ゐざるの罪はかの詩人にありぬべきをや。されど人の世の海に万波の起伏を詳にせむとして、仍且つ茫洋の嘆あらむとこそすれ、近く磯頭を劃りて一波の毎に砕くるには、強ても知らざるを為す。この岸には人の訪ふなく、白沙遠く埋めて途なきが如し。聴かずや、過ぎゆく時劫のすゝみをして声あらしむるは、大海の限りなき調とぞ言ふなる。今この無人の渚に佇みては、いかなる潮のこゝに流れ、いかなる調のこゝに伝ふかを問はじ。たゞかの倒瀾に対ひて独寂しく語らむもおもしろからずや。