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TORENDIA

仙人掌と花火の鑑賞

本文約3,700字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

駿河湾を望む別荘で、仙人掌の鮮紅の花を見つめる老人の姿と、夜空に咲く花火の光影を軸に、芸術における自然の変形と美学的探究を綴る。語り手は、植物園の温室で異国的な幻想に耽り、個性的かつ異端とされる純芸術の神髄を考察する。また、広重の版画やホイッスラーの夜曲を引き合いに出し、人々の日常から隔絶された感覚的で夢想的な芸術の領域を、仙人掌と花火という対照的な記号を通じて浮き彫りにする。

蒲原有明

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🎧 仙人掌と花火の鑑賞 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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わたくしはいつもの瞑想をはじめる。――否、瞑想ではない、幻像の奇怪なる饗宴だ。雜然たる印象の凝集と發散との間に感ずる夢の一類だ。さうしてゐるうちに突然とわたくしの腦裡に、仙人掌と花火といふ記號的な概念が浮んでくる。その概念が内容を摸索する。人間の日常生活には、さして交渉を保たないこの二つのものが、漸次に一つの情調の中に人工的な色と形のアレンジメントを創造する。

仙人掌の聯想の奧から、まづ第一に、或る老人の顏面が潮氣をふくんだ夕影のしつとりとしたアトモスフェアの中に現れてくる。顏から頤にかけて、拂子のやうな長い眞白な髯が垂れてゐる。そのためか顏色がひどく赤く見える。それがいつも眞白な髯に醉つてゐるのではないかと思はれる。

老人は右の手に亞鉛製の如露を持つたまゝ、左の手で髯を靜かに撫でおろす。聲調の緩い言葉がそれに伴つて起る。

「不思議ぢやありませんか、この仙人掌にこんな花がさきましたよお。」

吐いたものを呑みこむやうな、この海村特有の語尾のひびきが、「不思議」といふものをゆつたりと運び來り運び去るが如く聞える。

如露のさきからは濺ぎ終つたあとの雫がぽたりぽたりと滴つて、まだ熱氣を含んでゐる砂地に染みこんでゆく。その雫の一つが仙人掌の花の上に落ちかゝつたとき、鮮紅に匂つてゐる花が微かにゆらめくと見てとつたが、わたくしはその花の姿から、怪しい微笑を控へる異國の貴女の畫像の表はす情趣と共に、日光を怖れると同時に日光を嘲笑ふマニヤにかゝつてゐるステンド・グラスの神經質とを想ひ浮べる。そしてわたくしの眼の前には極めてイマジナチイブな瞬間が閃めいて過ぎ去つたのであるが、ふと氣がつくと、花の頸はまたもとどほり眞直になつてゐる。

傍に立つてゐる別莊守の老人の顏には單純な沈默がいつまでも夢をむさぼつてゐる。

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