ある女の裁判
本文約13,000字 ・ 読了時間 約26分
あらすじ(AIが作成しました)
法廷の傍聴に訪れた語り手は、窃盗の疑いで被告席に立つ女の裁判を目撃する。女は男に無理やり品物を預けられた末に犯罪行為に追い込まれたとされる。弁護士は女の置かれた窮状を代弁し、夫への隠し事や男の脅迫により拒否できなかった背景を訴える。語り手は裁判長の同情的な態度と執拗な訊問の間に矛盾を見出し、法廷という場で展開される人情の機微と裁判の在り方に深い関心を寄せる。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
ああ! 漸く、ほんとにやうやく、今日もまた今のびのびと体を投げ出すことの出来る時が来ました。けれど、もう十一時半なんです。此の辺では真夜中なんです。そして、今日の裁判所での半日は、それでなくても疲れ切つてゐる私を、もうすつかりへとへとに疲らして仕舞ひました。
出来るなら私は其処から真直ぐに家へ帰つて何も彼も投げ出して、寝床にころげ込みたいと思ひました。でも、南品川の叔父さんと叔母さんにお守りをされながら坊やが私を待つてゐるのです。私は虎の門で皆なと別れると真直ぐに新橋へ行つて坊やを迎へに急ぎました。
大崎で電車を降りてから石ころの多い坂路を挽きにくさうにしてのぼつて行く俥夫のまるで走らないのを焦り/\しながらついて見ますと、坊やは大よろこびで私に飛びついて来ました。そして大元気でした。叔父さんも叔母さんもおとなしかつたと云つて喜んでゐました。可愛想に坊やも、私が毎日出歩いてゐるものですから、昼間はこの十日ばかりと云ふものちつとも私と一緒にゐられないのです。九時過ぎに、叔父さんに抱つこされて大崎まで送られて帰つて来ました。電車の中でいゝ工合に眠つて駒込で降りる時にもよく眠つてゐましたが俥の上で涼しいのでか眼をさまして、家まで来て蚊帳の中で一しきり遊んで今やつとまた眠つたところです。
これから私も眠るのですけれど、体は非常に疲れてグタ/\になつてゐながら反対に頭は馬鹿にはつきり冴えてゐて何んだか急に眠れさうもないので、また、これからあなたに退屈しのぎに読んで頂く手紙を書かうと思ひ立つたのです。そしていゝ加減に頭をつかれさせたらいゝ気持に明日の朝までは何んにも知らずに眠れさうですから。