誓之巻
本文約7,700字 ・ 読了時間 約16分
あらすじ(AIが作成しました)
重い病を患うミリヤアドと、その看病をする高津、そして見舞いに訪れた上杉の三人が過ごす夜を描く。ミリヤアドは病状が悪化し、自身の運命を予感する中で、上杉に対してある切実な問いを投げかける。凍てつく夜の風が吹きすさぶ中、上杉は病床の彼女と向き合い、かつての母の面影を重ねながら、やり場のない悲しみと葛藤の中で彼女の言葉に応える。重苦しい空気と静寂の中で、登場人物たちの心情と誓いが交錯する様子を綴る。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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団欒 石段 菊の露 秀を忘れよ 東枕 誓
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団欒
後の日のまどいは楽しかりき。
「あの時は驚きましたっけねえ、新さん。」
とミリヤアドの顔嬉しげに打まもりつつ、高津は予を見向きていう。ミリヤアドの容体はおもいしより安らかにて、夏の半一度その健康を復せしなりき。
「高津さん、ありがとう。お庇様で助かりました。上杉さん、あなたは酷い、酷い、酷いもの飲ませたから。」
と優しき、されど邪慳を装える色なりけり。心なき高津の何をか興ずる。
「ねえ、ミリヤアドさん、あんなものお飲ませだからですねえ。新さんが悪いんだよ。」
「困るねえ、何も。」と予は面を背けぬ。ミリヤアドは笑止がり、
「それでも、私は血を咯きました、上杉さんの飲ませたもの、白い水です。」
「いいえ、いいえ、血じゃありませんよ。あなた血を咯いたんだと思って心配していらっしゃいますけれど血だもんですか。神経ですよ。あれはね、あなた、新さんの飲ませた水に着ていらっしゃった襦袢のね、真紅なのが映ったんですよ。」
「こじつけるねえ、酷いねえ。」
「何のこじつけなもんですか。ほんとうですわねえ。ミリヤアドさん。」
ミリヤアドは莞爾として、
「どうですか。ほほほ。」
「あら、片贔屓を遊ばしてからに。」
と高津はわざとらしく怨じ顔なり。
「何だってそう僕をいじめるんだ。あの時だって散々酷いめにあわせたじゃないか。乱暴なものを食べさせるんだもの、綿の餡なんか食べさせられたのだから、それで煩うんだ。」
「おやおや飛んだ処でね、だってもう三月も過ぎましたじゃありませんか。疾くにこなれてそうなものですね。」
「何、綿が消化れるもんか。」
ミリヤアド傍より、
「喧嘩してはいけません。また動悸を高くします。」
「ほんとに串戯は止して新さん、きづかうほどのことはないのでしょうね。」
「いいえ、わけやないんだそうだけれど、転地しなけりゃ不可ッていうんです。何、症が知れてるの。転地さえすりゃ何でもないって。」
「そんならようござんすけれど、そして何時の汽車だッけね。」
「え、もうそろそろ。」
と予は椅子を除けてぞ立ちたる。
「ミリヤアド。」
ミリヤアドは頷きぬ。
「高津さん。」