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TORENDIA

湯島詣

本文約64,300字 ・ 読了時間 約129分

あらすじ(AIが作成しました)

大学の寄宿舎で紅茶を囲む神月梓ら三人の学生は、神月と子爵夫人の不和や、神月が情婦の蝶吉と通う現状を議論する。後日、神月は交番で取り押さえられている蝶吉を見つけ、彼女を連れ出して共に姿を消す。二人の死後、谷中の瑞林寺には神月と蝶吉の墓が並び、神月の旧友たちと子爵夫人が密かに墓前を訪れる様子を描く。

泉鏡花

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紅茶会  三両二分  通う神  紀の国屋

段階子  手鞠の友  湯帰り  描ける幻

朝参詣  言語道断  下かた  狂犬源兵衛

半札の円輔  犬張子  胸騒  鶯

白木の箱  灰神楽  星

[#改丁]

紅茶会

一

「紅茶の御馳走だ、君、寄宿舎の中だから何にもない、砂糖は各々適宜に入れることにしよう。さあ、神月。」

三人の紅茶を一個々々硝子杯に煎じ出した時、柳沢時一郎はそのすっきりと脊の高い、緊った制服の姿を籐の椅子の大きなのに、無造作に落していった。

渠は腕袋の美しい片肱を椅子の縁に掛けて、悠然とぶら下げながら、

「篠塚、その砂糖をお客様に出して上げろ。」

「おい、」と心安げに答えたのは和尚天窓で、背広を着た柔和な仁体、篠塚某という哲学家。一脚の卓子を囲んで、柳沢と差向いに同じ椅子に掛けていたが、体を捻って、背後へ手を伸すと雑書を納れた本箱の上から、一瓶の角砂糖を取って、これを二人の間に居る一人の美少年の前に置いた。

「取って頂くよ。」と優しく会釈する、これが神月と呼ばれた客で、名を梓という同窓の文学士、いずれも歴々の人物である。

梓は柳沢が煎じてくれた紅茶の、薄紅色の透取る硝子杯の小さいのを取って前に引いたが、いま一人哲学者と肩を竝べて、手織の綿入に小倉の袴、紬の羽織を脱いだのを、紐長く椅子の背後に、裏を翻して引懸けて、片手を袴に入れて、粛然として読書する薄髯のあるのを見て、

「何を読んでるんです、」と少しく腰を浮かして、差覗いて聞いた。

「僕、」と応じはしたけれども、急に顔を上げたので誰に返事をするのであるか、自分にも分らないで迂路々々するのを柳沢は気軽に引取って、

「若狭が読んでるのは歴史だよ、国史専修の先生だもの、しばらくの間も研究を怠らない。」

「御勉強です、」といって神月が点首くと、和尚は、にやにやと笑いながら、その読んでる書を横目で見た。柳沢は吹出して、

「真面目な挨拶をする奴があるものか、歴史は歴史だが大変なもんです。無名氏著、岩見武勇伝だから可いじゃあないか。」

「酷く研究をしております、」と哲学者は仰いで飲む。これが聞えたものらしい。若狭は読みながら莞爾とした。

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