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TORENDIA

註文帳

本文約33,200字 ・ 読了時間 約67分

あらすじ(AIが作成しました)

東京の研屋・五助のもとへ、吉原の遊女たちがこぞって剃刀の注文に訪れる。ある十九日の夜、雪が激しく降る中、五助は奇妙な幻影に襲われる。時を同じくして、紅梅屋敷では遊女のお若と脇屋欽之助が悲劇的な事態に見舞われる。かつてない剃刀の注文と、廓で囁かれる不穏な噂が重なり、物語は雪に閉ざされた惨劇へと突き進む。五助は事の顛末を目撃し、二人の男女が遺した最後の言葉と死の行方を見届ける。

泉鏡花

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剃刀研  十九日  紅梅屋敷  作平物語  夕空  点灯頃

雪の門  二人使者  左の衣兜  化粧の名残

[#改ページ]

剃刀研

一

「おう寒いや、寒いや、こりゃべらぼうだ。」

と天窓をきちんと分けた風俗、その辺の若い者。双子の着物に白ッぽい唐桟の半纏、博多の帯、黒八丈の前垂、白綾子に菊唐草浮織の手巾を頸に巻いたが、向風に少々鼻下を赤うして、土手からたらたらと坂を下り、鉄漿溝というのについて揚屋町の裏の田町の方へ、紺足袋に日和下駄、後の減ったる代物、一体なら此奴豪勢に発奮むのだけれども、一進が一十、二八の二月で工面が悪し、霜枯から引続き我慢をしているが、とかく気になるという足取。

ここに金鍔屋、荒物屋、煙草屋、損料屋、場末の勧工場見るよう、狭い店のごたごたと並んだのを通越すと、一間口に看板をかけて、丁寧に絵にして剪刀と剃刀とを打違え、下に五すけと書いて、親仁が大目金を懸けて磨桶を控え、剃刀の刃を合せている図、目金と玉と桶の水、切物の刃を真蒼に塗って、あとは薄墨でぼかした彩色、これならば高尾の二代目三代目時分の禿が使に来ても、一目して研屋の五助である。

敷居の内は一坪ばかり凸凹のたたき土間。隣のおでん屋の屋台が、軒下から三分が一ばかり此方の店前を掠めた蔭に、古布子で平胡坐、継はぎの膝かけを深うして、あわれ泰山崩るるといえども一髪動かざるべき身の構え。砥石を前に控えたは可いが、怠惰が通りものの、真鍮の煙管を脂下りに啣えて、けろりと往来を視めている、つい目と鼻なる敷居際につかつかと入ったのは、件の若い者、捨どんなり。

手を懐にしたまま胸を突出し、半纏の袖口を両方入山形という見得で、

「寒いじゃあねえか、」

「いやあ、お寒う。」

「やっぱりそれだけは感じますかい、」

親仁は大口を開いて、啣えた煙管を吐出すばかりに、

「ははははは、」

「暢気じゃあ困るぜ、ちっと精を出しねえな。」

「一言もござりませんね、ははははは。」

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