夜釣の怪
本文約860字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
祖父と千住の女郎屋の主人が夜釣に出かけた際の怪異を綴る。川で釣りをしていた主人は、水底から浮かび上がる馬や女のような顔をした何者かを目撃する。その異様な存在が不気味に笑い、水面を掻き回す姿に恐怖を感じた主人は、急いで祖父のもとへ避難する。帰路まで口を閉ざすほど怯えた主人が体験した不可解な出来事と、その後の祖父の行動を淡々と描写する怪談である。
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私の祖父は釣が所好でして、よく、王子の扇屋の主人や、千住の女郎屋の主人なぞと一緒に釣に行きました。
これもその女郎屋の主人と、夜釣に行った時の事で御座います。
川がありまして、土堤が二三ヶ所、処々崩れているんだそうで御座います。
其処へこう陣取りまして、五六間離れた処に、その女郎屋の主人が居る。矢張り同じように釣棹を沢山やって、角行燈をつけてたそうです。
祖父が釣をしていると、川の音がガバガバとしたんです。
それから、何だろうかと思っていると、旋てその女郎屋の主人が、釣棹を悉皆纏めて、祖父の背後へやって来たそうです。それで、「もう早く帰ろう。」というんだそうです。
「今漸く釣れて来たものを、これから? 帰るのは惜しいじゃないか。」と言ったが、何でも帰ろうというものですから、自分も一緒に帰って来たそうです。
途中で、「何うしたんだ。」と言ったが、何うしても話さなかったそうです。その内千住の通りへ出ました。千住の通りへ出て来てから、急に明るくなったものですから、始めてその主人が話したそうです。
つまり「釣をしていると、水底から、ずっと深く、朧ろに三尺ほどの大きさで、顔が見えて、馬のような顔でもあり、女のような顔でもあった。」と云うのです。
それから、気味が悪いなと思いながら、依然釣をしていると、それが、一度消えてなくなってしまって、今度は判然と水の上へ現われたそうです。
それが、その妙な口を開いて笑ったそうです。余程気味が悪かったそうです。
それから、この釣棹を寄せて、一緒にして、その水の中をガバガバと掻き廻したんだそうです。
その音がつまり、私の祖父の耳に聞えたんです。それから、その女郎屋の主人は、祖父の処へ迎いに来たんです。
楼へ帰ってからその主人は、三月ほど病いました。病ったなり死んでしまいました。
夜釣に行くくらいだからそう憶病者ではなかったのです。水の中も掻き廻わしたくらいなのですけれど、千住へ来るまでは怖くって口も利けなかったと言ってたそうです。
それから私の祖父も釣を止しました。大変好きだったのですが止してしまいました。
完