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TORENDIA

チベット旅行記

本文約528,200字 ・ 読了時間 約1057分

あらすじ(AIが作成しました)

チベットの仏典を求め入国を志した僧侶が、厳重な鎖国と極限の自然環境に挑む記録を綴る。漢訳経典の正確性を確かめるため、原典の研究を不可欠と考えた著者は、世俗の地位を捨ててヒマラヤ越えを決意する。道中の見聞や宗教上の経験、そして帰国に至るまでの心境の変化を克明に描き出し、チベット社会の習俗や仏教が現地の人々の生活に及ぼす影響、さらには冒険の過程で得られた知見を詳述する。信仰と探求の情熱が交錯する入蔵の軌跡を収めた一冊である。

河口慧海

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序

チベットは厳重なる鎖国なり。世人呼んで世界の秘密国と言う。その果たして然るや否やは容易に断ずるを得ざるも、天然の嶮によりて世界と隔絶し、別に一乾坤をなして自ら仏陀の国土、観音の浄土と誇称せるごとき、見るべきの異彩あり。その風物習俗の奇異、耳目を聳動せしむるに足るものなきに非ず。童幼聞きて楽しむべく、学者学びて蘊蓄を深からしむべし。これそもそも世界の冒険家が幾多の蹉跌に屈せず、奮進する所以なるか。

余のこの地に進入せしは勇敢なる冒険家諸士に倣うて、探検の功を全うし、広く世界の文明に資せんとの大志願ありしに非ず。仏教未伝の経典の、かの国に蔵せられおるを聞き、これを求むるの外、他意あらざりしかば、探検家としての資格においては、ほとんど欠如せるものあり。探検家として余を迎えられたる諸士に十分なる満足を供する能わざりしを、深く自ら憾みとす。

されど、余にも耳目の明ありて専門の宗教上以外、社会学上に、経済学上に、あるいは人類に無上の教訓を与うる歴史の上において、その幼稚なる工芸中別に一真理を包摂する点において、地理上の新探検について、動植物の分布について等その見聞せるところも尠なからざりしかば、帰朝以来、これら白面の観察を収集して、梓に上さんと欲せしこと、一日に非ざりしも、南船北馬暖席に暇なく、かつ二雪霜の間に集積せるところは、尨然紛雑し容易に整頓すべからずして、自ら慚愧せざるを得ざるものあり。日ごろ旅行談の完成せるものを刊行して大方の志に酬いよと強うる友多し。余否むに辞なし。すなわちかつて時事新報と大阪毎日新聞とに掲載せしものを再集して梓に上せて、いささか友の好意に対え、他日をまちて自負の義務を果たさんと決しぬ。

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