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TORENDIA

黒猫

本文約6,700字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

病床に伏す私に最大の慰めを与えたのは、絶滅の危機にある樺太オオヤマネコの傲然たる姿であった。そんなある日、家の周囲に一匹の大きな黒い雄猫が現れる。彼は他の野良猫とは異なり、人間を恐れず堂々とした風格を漂わせていた。私はその姿に心ひかれるが、食糧難という現実の中で、庭の野菜を育てる母や家族にとって、台所に押し入る黒猫は排除すべき敵となる。やがて訪れる黒猫の運命と、それを知った私の心情を描く。

島木健作

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🎧 黒猫 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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病気が少しよくなり、寝ながら本を読むことができるようになった時、最初に手にしたものは旅行記であった。以前から旅行記は好きだったが、好きなわりにはどれほども読んでいなかった。人と話し合って見ても旅行記は案外読まれていず、少くともある種の随筆などとはくらべものにはならぬようであった。自分にとって生涯関係のありそうにもない土地の紀行など興味もなし、読んで見たところで全然知らぬ土地が生き生きと感ぜられるような筆は稀だし、あるなつかしさから曾遊の地に関したものを読むが、それはまたこっちが知っているだけにアラが眼につく、そういうのが共通の意見であるようだった。私自身も紀行の類を書きながら、こういうものを一体誰が読むだろう、そう思って自信を失ったおぼえがある。それが今度長く寝ついて、誰よりも熱心な旅行記の読者は病人にちがいないということを信ずるようになった。

私は間宮倫宗を読み松浦武四郎を読み、菅江真澄を読んだ。ゲーテを読み、シーボルトを読み、スウェン・ヘディンを読んだ。明治以後の文人のものは誰彼を問わず、家にあるものを散読した。そうして幾らもないそれらの本が尽きてしまうと、地理学の雑誌を枕もとにならべさせた。私は地理学の雑誌を何年も前から継続して取っていて、今まではただ重ねてあるだけだったが、この機会にこれらの頁を漫然と繰りひろげていると、これ以上の楽しみはないように思われて来た。

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