TRENDIA CLASSIC
雪解水
今井邦子
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何をくよくよ川ばた柳、水の流れを見てくらす
此俗謠は誰の作で、いつの頃から市井の唄となつて流行しだしたかはまだ調べてみないが、よほどの苦勞人の作であらう。ここで歌はれてゐる水の流れといふのは人生の象徴にもなつてゐるので、そこで一種洒脱の人生觀をもうたひ得てゐるのであらう。
水の流れに就て方丈記の作者ならずとも、私などでさへ見ても見ても飽ない大きい魅力を藏してゐる。河は春夏秋冬、それぞれの趣あつておもしろく無限に私の心に觸れ來るのである。
先年私は用事があつて信州伊那を訪ひ、そのついでに彼の地の人々のすゝめに誘はれて天龍峽に遊んだのであつた。
「信濃の春はおそけれど……」と歌にうたはれてゐる、そのおそい信濃の春さへもやや過ぎがたの四月のほんたうに末の頃であつた。山の落葉松が薄く緑にかすんで、その下に短く早蕨が萠えはじめてゐた。私たちはその山道をあへぎ登つて、高い巖の上から名にきいてゐる天龍峽の深い水の流れを見おろしたのであつた。その時私は蒼々とした、むしろ蒼黒く見える水の流れを想像してゐたのである。然し私が見おろしたその深い大いなる河の水は、白濁りに濁つて渦まき流れに流れてゆく……私は思はず