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TORENDIA

夜雲の下

本文約700字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

争議に敗れた者たちを乗せた自動車が、でこぼこの道を揺れながら刑務所へと向かう。道中、街で号外が配られ、犬養首相が襲撃されたという知らせが届く。混乱と恐怖に包まれる車内で、深い闇と重く垂れ下がる夜雲を仰ぎながら、彼らは自らの境遇と時代の不穏な空気を全身で受け止める。本作は、一九三二年五月十五日、時代が激動する中で護送される人々の極限の心理と張り詰めた緊張感を綴る獄中詩篇を収める。

榎南謙一

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🎧 夜雲の下 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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自動車が動揺すると

細引で縛られたまま

私たちの肩と肩とがごつんとあたる

争議は敗れた

送られる私たちは胸の苦汁をどうすることが出来たろう

「あちらでは吸えないんだぜ」

一本ずつもらった最後の煙草

言いようのない感慨とともに

蒼いけむりを腹の底までのみ

でこぼこだらけの道路を揺られて行った

やがて陽は墜ちたのか

道路にかぶさる青葉がだんだん翳ってくる

うなだれている私たちは

そのとき

道路のただならぬざわめきに気づいた

号外の鈴が慌しく鳴りひびき

気色ばんだ人たちがそこここに群れ

何か声高に話し合っていた

「犬養さんが殺されたんだって」

そう教えてくれた男は哀しげな表情をしたが

顔を見合わせた私たちは

思わずきっと眉があがった

一九三二年五月十五日であった

日はとっぷりと昏れて

スピイドを増した自動車は

ますますひどい動揺に喘いだ

車輪の軋りだけは微かにきこえるが

いまはどこを走っているのか

車窓のセルロイドには

泥のようにぬるぬるした闇だけだ

劇しい疲れにうつらうつらとなりながらも

ともすれば私たちは

おびえたように幾度も眼をしばたたいた

恐怖はびっしょりと全身を濡らしてくる

どうなとしやがれと観念きめても

さっきの号外の鈴が耳にこびりつき

しぼんだ心臓は急ぜわしくのたうちつづけている

黒い夜雲は低く垂れさがり

これからしばらくは

つむじ風が荒れるにちがいない

眠っている町角をカーヴすると

自動車は突然スピイドをぐっと緩めた

もう一度肩と肩がごつんとあたり

裂かれねばならぬ私たちは

しょうことなしにほんのすこし微笑み合った

くろぐろと空をのんでしまった

夜雲の下

刑務所の赤い燈が

車窓のセルロイドに点滅するのであった。

――獄中詩篇のうち (『詩精神』一九三四年十二月号に発表)

完

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