本文へ移動
TORENDIA

Ein Zwei Drei

本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

野村英夫の「栗鼠娘」、中村眞一郎の「死の影の下に」、福永武彦の「塔」という三人の若き作家による小説を紹介する。堀辰雄は、彼らの人となりや創作の様子、執筆した作品の印象を綴る。野村の稚拙ながらも屈託のない作風や、中村の若々しい長編の骨組、福永の描く幻想的かつ絵画的な短編の世界観についてそれぞれ語り、彼らが抱く文学への姿勢やフランス文学からの影響、執筆活動の近況を個別に論じる随筆である。

堀辰雄

速度
🎧 Ein Zwei Drei / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 3

1

本輯に「栗鼠娘」を書いてゐる野村英夫は、僕の「雉子日記」などに屡出てくる往年の野村少年である。冬になるとよく病氣をしてゐたが、そのころはいかにも牧童なんぞになつたら似合ひさうな少年で、死んだ立原道造なども弟のやうにかはいがつてゐたものだ。が、この少年、おとなしさうに見えて、なかなかの強情つぱりで、それには立原もよく手こずり、「このごろ野村君は、堀さんのいふことなら何んでもきくが、僕のいふことなんぞきいてくれなくなつた」と、さも不平さうにしてゐた。

いつまでももう野村少年でもあるまいが、――その野村はいつかフランシス・ジャムの詩を譯したり、自分でも詩を書いたりするやうになつた。さうしてこんどはこんな小説まがひのものまで書いた。野村はいまでも鷄小屋を繕つたり、庭の椅子をつくつたりすることが好きらしい。なかなか器用なことをやるな、とおもつて感心してゐると、ときどきとんちんかんなことをしてゐる。こんど彼がはじめて書いたこの小説まがひのものも、どこかそんな野村式のところがある。まあ、しやれていへば、稚拙な味とでもいつたものか。この作品をもうすこし小説らしいものにしようと思へば、前半では森のなかで娘が栗鼠などと遊ぶところをもうすこしファンタスチックに描き、又、後半では母娘三人の田舍暮らしにもうすこし日本の田舍らしい佗びしい感じを添へればいいのだ。だが、こんな風に、なんの屈託もなく、すうつと書けてしまつたやうな最初の作品は、あんまりいぢくらせたくないので、書き直させたりなんかするのは止めにした。

2

堀辰雄の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本