TRENDIA CLASSIC

Ein Zwei Drei

堀辰雄

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本輯に「栗鼠娘」を書いてゐる野村英夫は、僕の「雉子日記」などに屡出てくる往年の野村少年である。冬になるとよく病氣をしてゐたが、そのころはいかにも牧童なんぞになつたら似合ひさうな少年で、死んだ立原道造なども弟のやうにかはいがつてゐたものだ。が、この少年、おとなしさうに見えて、なかなかの強情つぱりで、それには立原もよく手こずり、「このごろ野村君は、堀さんのいふことなら何んでもきくが、僕のいふことなんぞきいてくれなくなつた」と、さも不平さうにしてゐた。

いつまでももう野村少年でもあるまいが、――その野村はいつかフランシス・ジャムの詩を譯したり、自分でも詩を書いたりするやうになつた。さうしてこんどはこんな小説まがひのものまで書いた。野村はいまでも鷄小屋を繕つたり、庭の椅子をつくつたりすることが好きらしい。なかなか器用なことをやるな、とおもつて感心してゐると、ときどきとんちんかんなことをしてゐる。こんど彼がはじめて書いたこの小説まがひのものも、どこかそんな野村式のところがある。まあ、しやれていへば、稚拙な味とでもいつたものか。この作品をもうすこし小説らしいものにしようと思へば、前半では森のなかで娘が栗鼠などと遊ぶところをもうすこしファンタスチックに描き、又、後半では母娘三人の田舍暮らしにもうすこし日本の田舍らしい佗びしい感じを添へればいいのだ。だが、こんな風に、なんの屈託もなく、すうつと書けてしまつたやうな最初の作品は、あんまりいぢくらせたくないので、書き直させたりなんかするのは止めにした。

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