青山菊栄様
あなたの公開状は本当に、私には有りがたいものでした。私は幾度も/\読み返しました。勿論、不服な事もありますがそれはおい/\申上げる事にして、先づ公娼廃止についてのあなたの考へ方は正当です。私はそう云ふ方面に全く無智なのです。私はまださういふ詳しい事を調べるまでに手が届かなかつたのです。その点では私はあゝ云ふ事を云ふ資格は全くなかつたのかも知れません。あれは私は或田舎の新聞に頼まれて書いたものなのです。別に深い自信のあるものでもなんでもありませんでした。けれども全く、私はあなたのお書きになつたものを拝見して始めてさう云ふことを気づいたのです。勿論、私はさういふ娼妓の生活状態に就いて無智な者ではないのです。私は可なりあの人たちの生活についてはもつと子供の時分から知つてゐましたのです。さうしてさういふ処に気のつかなかつたのは私の自重のない態度がさうさしたのです。私はあなたにその事を気をつけて下すつた事を感謝いたします、そして、あなたのやうな考へ方から見れば公娼廃止と云ふことも尤もな事です。もうその事については何にも云はない方が立派な態度かもしれません。こんな事を云ふのは卑怯な負惜しみと見えるかも知れませんが、私があれを書いた時に主として土台にしたのは矯風会の人たちの云ひ分でした。私はそれ以外に深く考へることをしなかつたのは私の落ち度ですが彼の人たちからはさう云ふ深い事は聞きませんでした。若しもあの人たちが本当にさう云ふ、あなたのやうな意見を以て向ふのなら、私だとてあんな事を書きはしません、私は矯風会の人たちからはまだそんな立派な事は聞きませんでした。それで、根本の公娼廃止と云ふ問題はあなたの仰つしやるやうな正当な理由から肯定の出来る事ですが、私は矯風会の人達の云ひ分に対しては矢張り軽蔑します。あの人達の云ふ事はあなたのゝ程徹底しては居ないと私は思ひます。