書簡 大杉栄宛
本文約770字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
千葉県御宿の上野屋旅館に滞在する著者が、大杉栄に宛てた心情を綴る。到着直後の寂しさや悪天候による閉塞感、滞在先の室の様子を伝えている。離れていることの不安や心細さを吐露し、相手に対して一刻も早い来訪を求める様子を描く。
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宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館 発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館
ゆふべ、つくと直ぐに手紙を書き出しましたけれど、腰が痛んで気持が悪いので止めました。つきますと直ぐに雨が降り出して、風がひどいので外には出られません。真暗な風の強いさびしい晩でした。停車場から此処まで歩いてくるうちに、泣きたくなつて仕舞ひました。停車場の直ぐ前ときいてゐましたけれども、少し離れてゐます。海の近くです。かなり広い家です。家のまはりはあんまり感じがよくありませんが、そんなに悪くもありません。
私の今ゐる室は一番奥の中二階みたいな室です。かけ離れてゐて、宿屋にゐるやうないやな気はしませんが、そして大変仕事をするにはいい室ですが、押入れがないので他に移りたいと思つてゐます。四畳半ですから本当にいいのですけれども。今朝は私の気持がすつかりおちついてゐます。汽車の中も随分さびしうございました。千葉からは二人きりになりました。
かうやつて手紙を書いてゐますと、本当に遠くに離れてゐるのだと云ふ気がします。あなたは昨日別れるときに、ふり返りもしないで行つてお仕舞ひになつたのですね。ひどいのね。私はひとりきりになつてすつかり悄気てゐます。早くゐらつしやれませんか。それだと私はどうしたらいいのでせう。こんなに遠くに離れてゐる事が、そんなに長く出来るでせうか。お仕事の邪魔はしませんから、早くゐらして下さいね。
こんな事を書いてゐますと、また頭が変になつて来ますから、もう止します。四時間汽車でがまんをすれば来られるのですもの、本当に来て下さいね。五日も六日も私にこんな気持を続けさせる方は――本当にひどいわ。私はひとりぽつちですからね。この手紙だつて今日のうちには着かないと思ひますと、いやになつて仕舞ひます。
[『大杉栄全集』第四巻、大杉栄全集刊行会、一九二六年九月]
完