TRENDIA CLASSIC
サニンの態度
伊藤野枝
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どんな性格の男に敬愛を捧げるかと云ふ問に対して理想を云へば、何れ鐘太鼓でさがしても、見つからぬやうなせひぜひ虫のいゝ事を並べても見られませうが、先づ手つ取り早く彼のやうな男がと云ふやうなのを云へば、これも実在の男ではありませんが、アルツバシエエフによつて描かれた、サニンが好きです。何物にも脅やかされず、どんな場合にも、大手を拡げて思ひのまゝに振舞ふ。一寸誰にも真似の出来ない超越した態度が好きです。しかもどんな好き勝手なまねをしても、少しの無駄も、誤魔化しもなく楽々と勝手を通して行く処に、本当に力強い魅力を感じます。殊に彼が、サルウヂンと云ふ士官に決闘を申込まれて平気でそれを拒絶し、猶それによつて侮辱の言葉に耳も貸さないで済まして居たり、それから公園の散歩道で、サルウヂンのムチが持ち出されるよりも早く、彼を只だ一撃になぐり倒す油断のない機敏さや、猶その場での、他の人達の顛倒とは全るで反対に、何にもなかつたやうな平静と、その事件によつて起つた二つの自殺――しかも、一は彼の冷酷に近い答へがその致命傷となつた事が明白に知れて居り、他もまた彼の一撃がその決心に導いた事が解つて居ながら、何の揺ぎをも見せない無関心な態度、若い理想主義者の死に対して、何の躊躇もなしに、その葬式に際して『世間から馬鹿が一人減つたのだ』と平気で云つて退ける彼が、私には少しのわざとらしさも嫌味もなく受け入れられるのです。サニンのやうな男なら、一つの命を二つ投げ出しても尊敬を捧げて見たいとおもひます。
体は出来る丈け男らしい肩と胸を持つた人が好きです。しかし、会つた最初にさうした肉体的な印象や圧迫を先きに、与へるやうなのは嫌です。
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