TRENDIA CLASSIC
小僧の夢
谷崎潤一郎
1 / 41
(一)の一
………己は名前を庄太郎と云って、今年十六歳になる商店の小僧だ。己の勤めて居る商店は、銀座三丁目の大通りにある、池田屋と云う洋酒店だが、京橋近辺に住んで居る人は大概知って居るだろう。日本橋の方から来て、京橋を渡って、五六丁行った左側に、あんまり立派でもないけれど、小綺麗なショウ、ウインドウの附いて居る、二階建て西洋造りの店があるだろう。その二階の窓から、夕方になると、十七八の、髪をハイカラに結った美しいお嬢さんが、時々うっとりと往来を眺めて居ることがあるだろう。池田屋と云って分らなければ、此のお嬢さんの住んで居る店だと云ったら、多分知らない者はあるまい。己の信ずる所によると、内のお嬢さんは、銀座街頭第一の美姫なのだから。
しかし、若しも読者が、今後銀座の大通りを散歩する折があったら、二階の窓のお嬢さんを拝む序に、店先の帳場の椅子に腰かけて居る、色の黒い、眼の窪んだ、極めて陰鬱な表情を持った一人の小僧に一瞥を与えてくれ給え。そうして、能う可くんば其の小僧の貧相な顔つきと、哀れな服装と、見すぼらしい境遇とに、一片の同情を寄せてくれ給え。
谷崎潤一郎の他の作品
TRENDIA CLASSIC
青春物語
谷崎潤一郎
青春物語
谷崎潤一郎 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
泉先生と私
谷崎潤一郎
泉先生と私
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
蘆刈
谷崎潤一郎
蘆刈
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
過酸化マンガン
水の夢
谷崎潤一郎
過酸化マンガン水の夢
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
覚海上人天狗に
なる事
谷崎潤一郎
覚海上人天狗になる事
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
陰翳礼讃
谷崎潤一郎
陰翳礼讃
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
紀伊国狐憑漆掻
語
谷崎潤一郎
紀伊国狐憑漆掻語
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
戯曲体小説 真
夏の夜の恋
谷崎潤一郎
戯曲体小説 真夏の夜の恋
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
鍵
谷崎潤一郎
鍵
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
客ぎらい
谷崎潤一郎
客ぎらい
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
恐怖
谷崎潤一郎
恐怖
谷崎潤一郎
TRENDIA CLASSIC
麒麟
谷崎潤一郎
麒麟
谷崎潤一郎