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TORENDIA

小僧の夢

本文約30,200字 ・ 読了時間 約61分

あらすじ(AIが作成しました)

銀座の洋酒店池田屋で小僧として働く十六歳の庄太郎は、現実の境遇と自身の内面との乖離に苦悩する。商売よりも芸術への憧れを抱く彼は、自身の持つ詩人的な素質が奉公生活では活かせず、現実と理想の狭間で葛藤を繰り返す。ある日、世界館で見たメリー嬢という女性の舞台に神秘的な美を見出し、彼女に強烈な憧憬を抱くことで、抑圧された芸術への欲求や現実逃避の念を募らせていく。次第に日常を捨てた破滅的な生への渇望が庄太郎の精神を占領する。

谷崎潤一郎

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(一)の一

………己は名前を庄太郎と云って、今年十六歳になる商店の小僧だ。己の勤めて居る商店は、銀座三丁目の大通りにある、池田屋と云う洋酒店だが、京橋近辺に住んで居る人は大概知って居るだろう。日本橋の方から来て、京橋を渡って、五六丁行った左側に、あんまり立派でもないけれど、小綺麗なショウ、ウインドウの附いて居る、二階建て西洋造りの店があるだろう。その二階の窓から、夕方になると、十七八の、髪をハイカラに結った美しいお嬢さんが、時々うっとりと往来を眺めて居ることがあるだろう。池田屋と云って分らなければ、此のお嬢さんの住んで居る店だと云ったら、多分知らない者はあるまい。己の信ずる所によると、内のお嬢さんは、銀座街頭第一の美姫なのだから。

しかし、若しも読者が、今後銀座の大通りを散歩する折があったら、二階の窓のお嬢さんを拝む序に、店先の帳場の椅子に腰かけて居る、色の黒い、眼の窪んだ、極めて陰鬱な表情を持った一人の小僧に一瞥を与えてくれ給え。そうして、能う可くんば其の小僧の貧相な顔つきと、哀れな服装と、見すぼらしい境遇とに、一片の同情を寄せてくれ給え。

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