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TORENDIA

二人の稚児

本文約17,800字 ・ 読了時間 約36分

あらすじ(AIが作成しました)

女人禁制の比叡山で育てられた二人の稚児、千手丸と瑠璃光丸は、煩悩から離れた生活を送る。ある日、千手丸は山を脱け出し、瑠璃光丸は一人取り残される。後に瑠璃光丸は、自らを惑わす幻影に苦しむ中、夢で示された釈迦が嶽の頂へ向かう。そこで傷ついた一羽の鳥を見つけ、前世からの宿縁を感じながら、その鳥を抱き締めて救おうと試みる。

谷崎潤一郎

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二人の稚児は二つ違いの十三に十五であった。年上の方は千手丸、年下の方は瑠璃光丸と呼ばれて居た。二人は同じように、まだ頑是ない時分から女人禁制の比叡の山に預けられて、貴い上人の膝下で育てられた。千手丸は近江の国の長者の家に生れたのだそうであるが、或る事情があって、此の宿房へ連れて来られたのは四つの歳のことである。瑠璃光丸は某の少納言の若君でありながら、やはり何かの仔細があって、よう/\乳人の乳を離れかけた三つの歳に、都を捨てゝ王城鎮護の霊場に托せられたのである。二人は勿論、そう云うはなしを誰からともなく聞かされては居るものゝ、自分たちに明瞭な記憶があるのでもなく、たしかな證拠があると云う訳でもない。自分たちには父もなく母もなく、たゞ此れまでに丹精して養うて下された上人を親と頼み、佛の道に志すより外はないと思って居た。

「お前たちは、よく/\仕合せな身の上だと思わなければなりませぬぞ。人間が親を恋い慕うたり、故郷に憧れたりするのは、みな浅ましい煩悩の所業であるのに、山より外の世間を見ず、親も持たないお前たちは、煩悩の苦しみを知らずに生きて来られたのだ。」と、折々上人から諭されるにつけても、二人は自分たちの境遇の有り難さを、感謝せずには居られなかった。上人のような高徳の聖でさえ、此の山へ逃げて来られる以前には、有りと有らゆる浮世の煩悩に苦しめられて、其の絆を断ち切るまでに、長い間の観行を積まれたのだそうである。まして上人のお弟子の中には、朝夕経文の講釈を聴きながら、未だに煩悩を絶やす事が出来ないのを、歎いて居る者が多勢あると云う。二人は世の中を知らないお蔭で、それほど恐ろしい煩悩と云う悪病に、罹らずに済んでしまうのである。煩悩を滅せば、やがて菩提の果を證することが出来ると云う其の煩悩を、始めから解脱して居る自分たちは、近いうちに稚児髷を剃り落して戒律を受けたなら、必ず師の御坊にも劣らぬような貴い出家になれるであろうと、其れを楽しみに日を送っていた。

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