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TORENDIA

発端・電話事件

本文約3,000字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

電話の返還を契機に発覚した、ある独居男性による奇妙な邸宅建築の顛末を綴る。東京の商店街に佇む「二笑亭」と名付けられたその家は、所有者が多額の費用と十余年の歳月を費やし、常識に囚われず自らの構想のみを追求して築き上げたものだった。精神疾患を理由に建築主が病院へ収容されたことで未完に終わったこの建築物の科学的な分析を通じ、狂気の中に潜む人間の深淵な心理と、芸術的建築としての価値を検証する。

式場隆三郎

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🎧 発端・電話事件 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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夏目漱石は家人のすすめで、やむなく電話を買ったが、うるさいからといってしばらく受話器をはずさせておいたという。自分の方からはかけるが、人からの呼出しには応じないわけである。これは漱石の神経症状のみられたころの奇行として、重大な意味をもたせてよいものか、反対にユーモラスな悪戯として笑ってすませるべきだろうか。それとも単なるゴシップで、事実無根であったろうか。

電話に関する綺譚、怪談、悲劇も、かぞえあげたら一冊の本になるくらい多いだろう。私にも、ひとつ思い出がある。子供の頃うちで電話を買ったが、前の持主は事業に失敗した商人だった。彼はいよいよ明日は電話をはずされるという前夜に、その電話機に紐をかけて縊死してしまった。仕事のゆきづまりで、もうどうにもならなかったのであろうが、大切な電話を失うことも大打撃だったにちがいない。それだけでも不吉な電話なのに、番号が「四二番」で「死に」通じるのだった。この二重に不吉な電話は、私の家でも気味悪がってしばらくひきとらずにいたが、そのうちにやむなくひきとって、茶の間の押入の中につけられた。重い板戸のなかで、ジーン、ジーンと電鈴がなると、先の持主の恨めしそうな声でもきこえてきそうで、私はたちすくんだものだった。

二笑亭綺譚の発端も、電話に始まる。

電話で生命をすてるような小心もののない現代でも、東京の電話は有力な資産であり、活動の武器でもあろう。それを無償で電話局へ返還すると申しでた人があった。所在は繁華な地区の商店街で、しかも番号は末広といって縁起のよい「八番」である。東京電話局はいままで電話にまつわる無数の事件を取扱ってきたが、無償で返すと申しでた人のあらわれたのは初めてのことだった。

この前代未聞ともいうべき事件は、当局をして理由の解釈に苦しませたが、所有者の執拗な申し出によってようやく手続を完了した。その理由は、あまりにも単純だった。電話が不用になった、引取ってくれ、金はいらないから売る必要はない、電話局はひきとる義務があるというのだった。

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