金色の死
本文約22,600字 ・ 読了時間 約46分
あらすじ(AIが作成しました)
少年時代からの学友である語り手と、巨万の富を持つ美少年岡村。二人は互いの才能を認め合いながらも、芸術に対する見解の相違を深めていく。やがて岡村は、数学を忌避し語学や機械体操に没頭するようになり、独自の美学を追求する。贅沢の限りを尽くした夜会で、金箔を全身に塗り如来の姿を演じた岡村は、そのまま冷たい屍として発見される。その光景を通じて、語り手は彼の生涯を芸術の究極の表現として回想する。
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一
岡村君は私の少年時代からの友人でした。丁度私が七つになった年の四月の上旬、新川の家から程遠からぬ小学校へ通い始めた時分に、岡村君も附き添いの女中に連られて来て居ました。彼と私とは教場の席順が隣り合って居て、二人はいつも小さな机をぴったり寄せ附けて並んで居ました。そればかりではなく、岡村君と私とはいろ/\の点でよく似たところがあるように思われました。
其の頃の私の家は大きな酒問屋を営んで居て、家業は日に日に栄えて行くばかり、繁昌に繁昌を重ねて、いつも活気に充ち充ちて居る店先の様子は、子供心にもおぼろげながら一種の歓びと安心とを感じさせる程でした。学校へ行く時も家に居る時も私は木綿の着物を着せられた事が有ませんでした。その上私は学問が非常によく出来て、算術でも読書でも凡ての学課が私の頭には実に容易くすら/\と流れ込みました。恰も白紙へ墨を塗るように、聞いた事は一々ハッキリと何等の面倒もなく胸の中へ記憶されるのです。私は多くの生徒たちが、物を覚えるのに困難を感ずると云う理由を解するのに苦しみました。
全級の生徒のうちで、誰一人として私の持って居るいろ/\の長所に企及する者はありませんでした。唯纔に岡村君が、或る方面に於いて多少私に類似し、若しくは凌駕して居るだけでした。彼は私と同い年にも拘らず、一つか二つ年下に見える小柄な品のいゝ美少年でした。彼の家には巨万の富があり、彼の両親は早く此の世を去って、兄弟のない彼は伯父の監督の下に養育されて居たのです。当時世間の噂に依ると、将来彼が相続す可き岡村家の遺産と云うものは、恐ろしい多額なもので、諸種の株券、鉱山、山林、宅地などを合算すれば三井岩崎の半分ぐらいは確にあるとの評判でした。ですから自分の家の「富」の程度を比べたなら、私は到底彼の足許にも及ばない訳なのです。私はそれを悲しいと思いました。