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TORENDIA

旅行に就いて

本文約4,400字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

旅行を愛する筆者が、徒歩を中心とした質素な長途の旅の魅力を綴る。地図で行程を定め、弁当箱や茣蓙を携え、旅先での名物食を楽しむ極めて簡易な旅の様式を説く。身体的な苦労は伴うが、道中の変化や追懐にこそ旅の醍醐味があるとし、休暇中の活用を学生に強く推奨する。見知らぬ土地での交流や厳しい自然の中での休息、名物との出会いが、旅の記憶をより豊かなものへと昇華させる様を描いている。

長塚節

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🎧 旅行に就いて / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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余は旅行が好きである、年々一度は長途の旅行をしなければ氣が濟まぬやうになつた。兎に角全國歩いて見たい積りで地圖の上に朱線の殖えるのを樂みの一つにして居る。時には汽車や汽船の便を借りることもあるが、大抵は徒歩である。隨つて身體には苦勞を掛けて、歸りには顏が黒くなつて頬骨が出る。それで苦勞をすればする程、旅行の面白味が増して、話の種が殖えて來る。人に旅中の話をすれば、人も面白いといふ。自分は益々得意になる。偶々旅行して、どれだけ面白味があるのだと反問するものがあるが、旅行をしたことの無い者には、旅行の面白味は分るものではない。枇杷の木に黄色な實が熟したとて、下から見たゞけでは味はわからぬ。一つでもちぎつて見れば、枇杷のうま味は直にわかる。旅行をして見れば、旅行の面白味は直に知れる。素裸になつてただごろ/″\して居る者は、長い暑中休暇を短くして暮すものである。五十餘日を回顧して何物も頭に浮び來るものが無いからである。旅行をすれば、其處に追懷といふものがある。短い時日でも、長くするのは變化と活動とに富める旅行の賜である。特別の事情ある者は格別、然らざるものには、切に休暇中の旅行を勸める。多くの學生の間には、必便宜を有して居ても、躊躇して居るものがあることゝ思ふ。此は余が以前は非常な旅行嫌ひで、僅に一日の遠足でも出ることが稀で、素より修學旅行などに隨伴したことがなく、唯恐れてばかり居つたことに徴して、十分に想像が出來るのである。然し實際旅行をして見ると、案外に人が親切で一向苦にならぬものである。

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