大和古寺風物誌
本文約108,200字 ・ 読了時間 約217分
あらすじ(AIが作成しました)
飛鳥時代、推古天皇の御代に摂政として国を治めた上宮太子。その波乱に満ちた生涯や、骨肉の争いという凄惨な現実の中で彼が抱いた苦悩、そしてその救済を祈る信念を、筆者は大和の地で古寺や仏像を巡りながら探究する。歴史資料や十七条憲法を読み解き、太子が祈りの中に込めた切なる願いや、当時の人々の心のあり方に迫る。本書は、古寺巡礼を通して歴史と宗教、そして日本人の深い精神性に触れる軌跡を綴った作品である。
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斑鳩宮
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飛鳥の祈り
推古天皇の御代、上宮太子が摂政として世を治めておられた飛鳥の頃は、私にとって最も懐しい歴史の思い出である。私ははじめ史書によってこの時代を学んだのではなかった。大和への旅、わけても法隆寺から夢殿、中宮寺界隈へかけての斑鳩の里の遍歴が、いつしか私の心に飛鳥びとへの思慕をよび起したのである。海岸を思わせる白砂と青松、そのあいだを明瞭に区ぎっている法隆寺の土塀、この整然たる秩序を保った風光の裡に、千三百年のいにしえ、新しい信仰をめぐってどのような昏迷と苦悩と、また法悦が飛鳥びとをとらえたか。私は法隆寺の百済観音や中宮寺の思惟の菩薩に、幾たびかその面影をさぐってみた。頬に軽く指先をふれた柔軟な思惟像に彼らの瞑想の深さを偲び、或は百済観音のほのぼのとした清純な姿に法悦の高い調べを思ったりした。これらみ仏そのままの風貌で、飛鳥びとはこの辺を逍遥していたのであろうか。そこには永遠の安らいがあったに相違ない。はじめて法隆寺を訪れた頃は、私はこうした思いで心が一杯になり、夢中で斑鳩の址をめぐって歩いた。私の心にも漸く新生の曙が訪れそめた頃であった。