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TORENDIA

氷島の漁夫

本文約146,300字 ・ 読了時間 約293分

あらすじ(AIが作成しました)

冷たい海に囲まれたブルターニュの村で、漁夫たちは酒を酌み交わし結婚の話で賑わう。巨躯で快活なヤンや若きシルストルらは、海と共に生きる過酷な生活の中で強い連帯感を育む。物語は、遥か彼方の海へと乗り出していく男たちの運命と、その帰りをひたすら待ち続ける陸に残された女性たちの姿を、圧倒的な海原の描写とともに描き出す。過酷な自然とそれに抗えぬ人間たちの哀歓を綴る。

ピエル・ロチ Pierre Loti

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第一編

一

恐ろしく肩幅の廣い五人の男が、鹹氣と海との臭ひのする或る薄暗い家のやうななかで、肱を突いて酒を飮んでゐた。彼等の身長にはひくすぎるその棲家は、一方の端へ末細りして、丁度大きな海鴎の空虚な腹のやうであつた。それは緩い、眠氣を催させる、單調ななげきを立てて、微かに搖れた。

外界は確かに海と夜とであつた、が、それについては少しもわからなかつた。天井にたゞ一つだけ開けてあつた窓は木の蓋で閉されてゐた。そして古い吊りランプがゆら/\搖れて彼等を照らしてゐた。

暖爐には火が燃えてゐた。彼等の濡れた衣服は、湯氣を立てて乾いた。その湯氣は彼等の素燒のパイプからの烟と入り亂れた。

彼等の嵩張つた食卓はその室一杯を塞げてゐた。それは室と全く同じ形をしてゐた。そしてその食卓の周圍には槲の壁板へ打ちつけた狹い棚木に腰を掛けるだけのいくらかの餘地はあつた。彼等の上には殆ど頭のつかへさうな大きな梁が渡つてゐた。そして彼等の背後には、厚い材木のなかを抉つたらしい寢床が、死者を入れる墓穴のやうに、口を開いてゐた。總てこの木細工は粗末な荒削りで、濕氣と鹹氣とが中まで沁み透つてゐて、彼等の手擦れで磨れて光つてゐた。

彼等は粥椀で、葡萄酒や、林檎酒やを飮んでゐたが、生々した歡びが、そのこだわりのない、元氣な顏を輝かしてゐた。彼等は今食卓について、ブルトン訛で、女のことや、結婚のことを、語り合つてゐた。

部屋の奧の鏡板には、ファイアンス燒の[#「ファイアンス燒の」は底本では「フ イアンス燒の」]聖母の像が小架の上に祠られてあつた。この聖母はこれ等水夫達の守神で、すこし古びてゐた、そして極く簡素な技巧で彩られてゐた。けれど、陶器で作られた人の姿は、生きた人々より遙かに長い命を保つものである。それで彼女の紅と青との服裝は、この貧しげな木造の家の總ての薄暗い灰色の中で、一點の鮮かな效果を見せてゐた。彼女は、これ迄にも、度々、惱みの時の熱い祈りを聽いたことであらう。彼女の足許には、二つの造花の束と、一つの念珠とが釘づけにせられてゐた。

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