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女は寝台のそばに立って、しょんぼりと考えこんでいた。病室用のだぶだぶな被布にくるまっているせいでもあろうが、何だか実際よりも痩せ細って見えた。

あの愛くるしい顔もすっかり衰えてしまった。眼の縁はうすく黯ずんだけれど、哀愁をたたえた底知れぬ深さの碧眼が不釣合なほど大きく見えて、それが僅かに顔の全体を明るくしているようだ。頬は、肺病患者によくある病的紅潮を呈し、そして鼻の両側に出来た深い凹みは、恰かも止め度ない涙のために、そこのところだけ擦り耗ったかと思わせるのであった。

彼女は、受持の医員が傍へやって来たのを見て、お辞儀をすると、

「おい四番、お前さんは外出したいって云ったそうだが、本統かい」

「はい」

かすかに囁くほどの声で答えた。

「飛んでもないことだ。お前さんは辛と二、三日前に起床られるようになったばかりじゃないか。それに、こんな天気に外出するとまた悪くなるよ。もう少し我慢をしなさい。此院は別段不足がない筈なんだが、それとも誰か気に触ることでもしたかい」

「いいえ、先生、そんなことはございません」

「そんなら何故だしぬけに外出したいなんて云うんだね」

「わたし、どうしても出かけなければなりません」

きっぱり云って退けた。その声は案外しっかりしていた。そして、問いかえされぬ前に急いで後をつづけた。

「今日は万聖節でございますわね。わたし一緒になっていた男の墓に、今日はきっとお詣りしてお花を供げるっていう約束をしました。わたしの外には誰もお花なんか供げてくれ手がないんです。それで、堅い約束をしましたの」

涙が一滴、眼瞼にきらりと光ったのを彼女は指で押しぬぐった。

医員は何となく可憫そうになって来た。そして一種の好奇心からか、それとも何か云ってやらねばあんまり無愛想だとでも思ったのか、ふと彼女に問いかけた。

「その情人は何時亡くなったの」

「もう、一年になります」

「何だってそんなに若死をしたんだね?」

女は慄然としたようであった。その落ちくぼんだ胸部や、細々と痩せた手首などが一そう惨々しく見えた。そして彼女は半ば眼をつぶり、唇をふるわせながら、

「死刑になりましたの」

と呟くようにいった。

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