碧眼
本文約5,400字 ・ 読了時間 約11分
あらすじ(AIが作成しました)
肺病を患う元娼婦の碧眼は、万聖節に死刑となったかつての恋人の墓へ花を供えると固く誓う。金銭を得るために再び街で客を引き、稼いだ金で花束を買って墓地へ駆け込み約束を果たす。疲れ果てて滞在先のホテルへ戻った彼女は、同居の娼婦から、自分がつい先ほど相手をした客の正体が死刑執行吏であったことを告げられ、衝撃を受ける。
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女は寝台のそばに立って、しょんぼりと考えこんでいた。病室用のだぶだぶな被布にくるまっているせいでもあろうが、何だか実際よりも痩せ細って見えた。
あの愛くるしい顔もすっかり衰えてしまった。眼の縁はうすく黯ずんだけれど、哀愁をたたえた底知れぬ深さの碧眼が不釣合なほど大きく見えて、それが僅かに顔の全体を明るくしているようだ。頬は、肺病患者によくある病的紅潮を呈し、そして鼻の両側に出来た深い凹みは、恰かも止め度ない涙のために、そこのところだけ擦り耗ったかと思わせるのであった。
彼女は、受持の医員が傍へやって来たのを見て、お辞儀をすると、
「おい四番、お前さんは外出したいって云ったそうだが、本統かい」
「はい」
かすかに囁くほどの声で答えた。
「飛んでもないことだ。お前さんは辛と二、三日前に起床られるようになったばかりじゃないか。それに、こんな天気に外出するとまた悪くなるよ。もう少し我慢をしなさい。此院は別段不足がない筈なんだが、それとも誰か気に触ることでもしたかい」
「いいえ、先生、そんなことはございません」
「そんなら何故だしぬけに外出したいなんて云うんだね」
「わたし、どうしても出かけなければなりません」
きっぱり云って退けた。その声は案外しっかりしていた。そして、問いかえされぬ前に急いで後をつづけた。
「今日は万聖節でございますわね。わたし一緒になっていた男の墓に、今日はきっとお詣りしてお花を供げるっていう約束をしました。わたしの外には誰もお花なんか供げてくれ手がないんです。それで、堅い約束をしましたの」
涙が一滴、眼瞼にきらりと光ったのを彼女は指で押しぬぐった。
医員は何となく可憫そうになって来た。そして一種の好奇心からか、それとも何か云ってやらねばあんまり無愛想だとでも思ったのか、ふと彼女に問いかけた。
「その情人は何時亡くなったの」
「もう、一年になります」
「何だってそんなに若死をしたんだね?」
女は慄然としたようであった。その落ちくぼんだ胸部や、細々と痩せた手首などが一そう惨々しく見えた。そして彼女は半ば眼をつぶり、唇をふるわせながら、
「死刑になりましたの」
と呟くようにいった。