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TORENDIA

蘿洞先生

本文約7,600字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

雑誌記者は、学界名士訪問録の取材のため蘿洞先生の邸宅を訪れる。先生は昼過ぎまで寝起きせず、応接間に現れても極めて無愛想で、記者の問いかけにも曖昧な返答を繰り返す。不審を抱いた記者が邸宅の裏へ回り、書斎の様子を覗き見ると、そこには寝間着姿の先生が小間使いに背中へ腰をかけさせ、籐の笞で打たれるという奇妙で倒錯的な光景が繰り広げられていた。

谷崎潤一郎

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🎧 蘿洞先生 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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A雑誌の訪問記者は、蘿洞先生に面会するのは今日が始めてなのである。それで内々好奇心を抱いて、もうさっきから一時間以上も待っているのだが、なか/\先生は姿を見せない。取次に出た書生の口上では「まだお眼覚めになりませんから」と云うことだった。寝坊な人だとは記者もかね/″\聞いていたから、その積りで来たのだけれど、何ぼ何でも既に十二時半である。三月末の、彼岸桜が咲こうと云う陽気に、午過ぎ迄も寝ている者があるだろうか。記者はそう思って、すき腹を我慢しながら、応接間の硝子戸越しに、うら/\と日の照っている庭の方を眺めていた。

東京の郊外の邸としてはそんなに廣い庭ではないが、手入れは可なり行き届いている。せいの低い、煉瓦の柱の表門から、正面のポーチへ通ずる路の両側に躑躅が行儀よく植えられて、その向うには芝生がある。それから瓦で四角に仕切った花壇などもある。独身者の蘿洞先生は、書生や下女を相手にして草花いじりをやるのだろうか。尤も手入れが届いているのは庭ばかりでなく、たとえば此処の応接間にしても、甚だ清潔で居心地がよい。A雑誌記者は職掌柄、学者や政治家や実業家や、いろ/\の人の応接間を見たが、さすがに此処の先生は長く西洋にいたゞけあって、額の懸け方、家具の置き場所、壁と窓掛けの色の調和など、よく考えてあるらしい。小じんまりした質素な部屋ではあるけれど、感じが何となくハイカラで、塵一本もないように掃除がしてあり、椅子の覆いやテーブルクロースも洗濯をしたばかりのように純白である。こうして見ると先生は潔癖家ではないのか知らん? それとも独身生活の人は、こう云う事に却って神経を使うのか知らん?

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