風
本文約38,500字 ・ 読了時間 約77分
あらすじ(AIが作成しました)
四国で暮らす茂緒は、東京で困窮した生活を送る修造から誘いを受け、一人で上京する。二人は郊外で新生活のための家探しを始め、苦労の多い日々を支え合いながら歩む。左翼運動に従事する修造が負傷する出来事を経て、二人は新たな拠点へ移り住む。周囲の女性たちが独自の歩みを見せる中、茂緒は新しい希望と熱気を帯びた若い芸術家たちが集う修造の傍らで、変わらず彼を見守りながら日々を生き抜く。
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一
ふたりが世の常の男女らしく動けば、ことは平凡に運んだろうに、おたがいになにかしら少し足りないものがあって、なかなかそこまでゆかなかった。つまりふたりの間には長い年月にわたって手紙のやりとりが続きながら、若い男と女の間にあってしかるべき恋文のやりとりは一度もないという、ふしぎな間がらだったのだ。しかし、はたの者にはそう見えなかったらしい。
「修造の嫁は茂ちゃんぐらいでないと納まるまい。」
修造の兄がだれかにそんなことをもらし、それは茂緒の耳にも何度か入ってきたが、茂緒はフンという顔をしていた。修造がフンとしているのを感じていたからだ。茂緒の両親もまた修造の兄と同じ目でふたりをみているのを感じて、茂緒はさらにフンとした。そして親たちには口に出していった。
「男と女が交際しとると、だれもかれも妙な目で見るん、ほん好かん。」
自分たちはワケがちがうといいたかったのだが、しかし茂緒がなんといおうとも、男と女のつきあいは結婚が目的でなければならないと、はたのものはやきもきしているようだった。茂緒だとて、心の皮をひんむいてみれば、だれにも劣らぬ赤い血がふき出したにちがいない。だが、はたの人にやきもきされて、それで何とかなるなど、田舎娘だとはいえ、新しい時代を生きようとしている修造たちの息吹にふれてきた茂緒にとっては、阿呆らしくて問題にならなかった。何一つ新しい知識があるのでもないのに、茂緒は啖呵をきるのだ。
「自分の始末ぐらい自分でやるさかい、心配しなさんな。お母さんらと時代がちがうんじゃ。それに、嫁にいかん娘が一人ぐらいおったって、よかろがいの。」
そのくせ、修造から、東京へ遊びにこないかという手紙をもらうと、彼女はのぼせあがってしまった。
「修造さんが、来いって。うち、行こうかしらん……」
母をまともに見ることもできぬくせに、はっきりといった。母はおどろいて、
「来いって? 一しょになろうというのかい。」
茂緒はさっと水をかけられたような気がし、こんどはいつもの気さくさで、