妻の座
本文約82,400字 ・ 読了時間 約165分
あらすじ(AIが作成しました)
戦災を免れた街で、小説家のミネは、夫である詩人の悠吉や、再婚したばかりの妹閑子の夫である作家の野村と共に、戦後の新しい文学運動の流れの中に身を置く。しかし、野村は自身の四人の子供たちと閑子の間の葛藤を解決できず、閑子を一時的に帰宅させる。その後、野村から何の音沙汰もないまま、閑子は取り残されたような状態に陥る。ミネは労働者の集う祝祭の行列を眺めながら、時代に翻弄されつつも個々の人生を歩む人々の姿と、消息を絶った妹の運命に思いを馳せる。
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一
広いアスファルトの道路をへだてて、戦災をのがれた向う方には大きな建物が並び、街路樹も青々と繁っている。もとは兵営だったその建物も今は占領軍の宿舎になっているとかで、ぬり替えられた白い壁にくっきりと窓々のブルーの被いが、晴れた夏空に、いかにも暑さを静めるかのように並んでいる。目のさめるような色どりだった。繁った街路樹の下かげに幾台ものジープなどのとまっているその風景は、焼けあとの瓦礫さえもまだ片づかぬ終戦後一年のこちら側と、僅か道路一つのへだたりとは受けとれぬほど対照的で、遠い外国をながめるようであった。一本であって二本に区別されている道は、ブルーの窓かけともろこし畑を向い合せにして行く手の電車通りへ続いている。よほど気をつけないとつまずきそうなでこぼこの歩道を、ミネを交えた四五人の一団が歩いていた。ある小さな集りの帰りである。思いがけなく酒が出たりなどしたので、男たちは真っ赤に顔を染め、ひどく機嫌がよかった。赤くないのは女のミネひとり、しかもミネは一しょにかたまって歩いている野村へのこだわりから変に気が滅入り、みんなの機嫌のよさが普段のようにすらりと受けとれないような、妙な気持の状態で男たちを眺めていた。ゆるい上り坂の道が、暑さに弱いたちのミネにずっくりと汗をかかせる。あえぎながら顔の夕日を白扇でさえぎっているミネの手に、思いがけない痛さで道端のもろこしの葉がふれた。
「あっ。」