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TORENDIA

故郷の花

本文約6,900字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

三好達治が綴る詩集。古今和歌集の古歌を序に、四季の移ろいや旅先での風景、失われた故郷への思いを情緒豊かに描く。戦後の荒廃した国土や静かな墓地、幼い頃の記憶を留める横笛などを通して、滅びゆくものへの哀愁や、孤独な旅人としての自己の心象風景を詩情あふれる言葉で表現する。自然と対話しながら、過ぎ去りし日々の記憶を追う心象と、静寂に包まれた情感を叙情的にまとめる。

三好達治

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人はいさこころもしらすふるさとは花そむかしの香ににほひけるつらゆき

[#改ページ]

鳶なく ――『故郷の花』序に代へて

日暮におそく

時雨うつ窓はや暗きに

何のこころか

半霄に鳶啼く

その聲するどく

しはがれ

三度かなしげに啼きて盤桓す

波浪いよいよ聲たかく

一日すでに暮れたり

ああ地上は安息のかげふかく昏きに

ひとり羽うち叫ぶこゑ

わが屋上を遠く飛び去るを聽く

すみれぐさ

春の潮相逐ふうへにおちかかる

落日の ――いま落日の赤きさなかに

われは見つ

かよわき花のすみれぐさひとつ咲けるを

もろげなるうなじ高くかかげ

ちひさきものもほこりかにひとり咲けるを

ここすぎて

われはいづこに歸るべきふるさともなき

落日の赤きさなかに――

をちかたびと

をちかたのひとはをちかた

はるふかきにはにねむれば

はとのなくこゑにもめざむ

うたたねのゆめのみじかさ

をちかたのひとはをちかた

はるふかきにはのおちばを

もせばもゆほのほはしばし

めにしみていたきけむりや

春のあはれ

春のあはれはわがかげの

ひそかにかよふ松林

松のちちれをひろひつつ

はるかにひとを思ふかな

春のあはれはわがかげを

めぐりて飛べるしじみ蝶

すみれの花ゆまひたちて

ゆくへはしらず波の上に

春のあはれはわがかげの

ひそかにいこふ松林

かばかり青き海の上に

松のちちれをひろふかな

空琴

いかなればのらすそらごと

いのちをもみをもをしめと

いのちをもみをもをしみて

かへるべきかたやいづかた

ゆくへなきあすををしめと

さるをなほのらすそらごと

はるかぜにとらるるさへや

ただをしむきみがおんそで

みづにうかべど

みづにうかべど空をとぶ

ふたつのつばさぬらさじと

かろきたくみのかもめどり

こころををしむ旅人の

あはれゆかしき江のみづに

あとなきときは流れつつ

浮雲

空にうかべる雲なれば

よるべはなけれ

くれなゐの

いろにそまりつ

いろにそまりつ

沖の島の

空にうかべる

あかね雲

ただたまゆらのよそほひに

身をほろぼすも

うき雲の

さだめなりかし

さだめなりかし

沖の鳥の

こころなきさへ

ひとめぐり

ふらここ

わが庭の松のしづ枝に

むなしただふらここ二つ

うちかけてしばしあそびし

あまの子のすがたは見えず

たれびとの窓とや見まし

そよ風のふきかよふのみ

さるすべり花ちるところ

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