織成
本文約3,600字 ・ 読了時間 約8分
あらすじ(AIが作成しました)
試験に落第した秀才・柳は、帰路の洞庭湖で水神の舟に迷い込み、そこで美しい女たちや王者と出会う。詩の才能を認められ、洞庭の神から王妃の侍女・織成を授かった柳は、不思議な定規を手に帰還する。やがて織成を妻として迎え、その類いまれな境遇により富貴を得た柳は、その後もたびたび洞庭湖を訪ねては妻の里帰りと神からの贈り物を受け取る不思議な縁を描く物語。
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洞庭湖の中には時とすると水神があらわれて、舟を借りて遊ぶことがあった。それは空船でもあると纜がみるみるうちにひとりでに解けて、飄然として遊びにゆくのであった。その時には空中に音楽の音が聞えた。船頭達は舟の片隅にうずくまって、目をつむって聴くだけで、決して仰向いて見るようなことをしなかった。そして、舟をゆくままに任しておくと、いつの間にか遊びが畢って、舟は元の処に帰って船がかりをするのであった。
柳という秀才があって試験に落第しての帰途、舟で洞庭湖まで来たが酒に酔ったのでそのまま舟の上に寝ていた。と、笙の音が聞えて来た。船頭は水神があらわれたと思ったので、柳を揺り起そうとしたが起きなかった。船頭はしかたなしに柳をそのままにして舟の底へかくれた。
と、人が来て柳の頸筋をつかんで曳き立てようとした。柳はひどく酔っているので持ちあがらなかった。そこで手を放すとそのまままたぐったりとなって眠ってしまった。しばらくしてその柳の耳に鼓や笙の音が聞えて来た。柳はすこし眼が醒めかけたのであった。蘭麝の香が四辺に漂っているのも感じられた。柳はそっと窺いてみた。舟の中は綺麗な女ばかりで埋まっていた。柳は心のうちでただごとでないことを知った。柳は目をつむったように見せかけていた。しばらくして、
「織成、織成。」
と口移しにいう声がした。すると一人の侍女が来て、柳の頬の近くに立った。それは翠の襪に紫の色絹を着て、細い指のような履を穿いていた。柳はひどく気に入ったので、そっと口を持っていってその襪を齧んだ。しばらくして女は他の方にいこうとした。柳が襪を齧んでいたためによろよろとして倒れた。一段高い所に坐っている者がその理由を訊いた。
「その方は、何故に倒れたのか。」
女はその理由を話した。
「ここにいる人間が私の襪を齧んだためでございます。」
高い所にいた者[#「者」は底本では「音」]はひどく怒った。
「その者に誅を加えるがよかろう。」
武士が来て柳をつかまえ曳き立てていこうとした。高い所には冠服をした王者が南に面して坐っていた。柳は曳き立てられながらいった。