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TORENDIA

本所両国

本文約21,200字 ・ 読了時間 約43分

あらすじ(AIが作成しました)

著者である私は、かつて住んでいた本所界隈を久しぶりに散策する。かつての面影を残す大名屋敷や封建時代の風情は消え失せ、震災後のバララックが立ち並ぶ風景に流転の相を目の当たりにする。かつての記憶に重なる叔父の姿や両国の変遷を辿りながら、家族との対話を通じて街の変容を確かめる。鴨長明の無常観を引用しつつ、激しく姿を変え続ける都市への印象と、そこにかつての情景を重ね合わせる様子を描く。

芥川龍之介

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「大溝」

僕は本所界隈のことをスケツチしろといふ社命を受け、同じ社のO君と一しよに久振りに本所へ出かけて行つた。今その印象記を書くのに当り、本所両国と題したのは或は意味を成してゐないかも知れない。しかしなぜか両国は本所区のうちにあるものの、本所以外の土地の空気も漂つてゐることは確かである。そこでO君とも相談の上、ちよつと電車の方向板じみた本所両国といふ題を用ひることにした。――

僕は生れてから二十歳頃までずつと本所に住んでゐた者である。明治二三十年代の本所は今日のやうな工業地ではない。江戸二百年の文明に疲れた生活上の落伍者が比較的大勢住んでゐた町である。従つて何処を歩いてみても、日本橋や京橋のやうに大商店の並んだ往来などはなかつた。若しその中に少しでも賑やかな通りを求めるとすれば、それは僅に両国から亀沢町に至る元町通りか、或は二の橋から亀沢町に至る二つ目通り位なものだつたであらう。勿論その外に石原通りや法恩寺橋通りにも低い瓦屋根の商店は軒を並べてゐたのに違ひない。しかし広い「お竹倉」をはじめ、「伊達様」「津軽様」などといふ大名屋敷はまだ確かに本所の上へ封建時代の影を投げかけてゐた。……

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