TRENDIA CLASSIC
出帆
芥川龍之介
1 / 4
成瀬君
君に別れてから、もう一月の余になる。早いものだ。この分では、存外容易に、君と僕らとを隔てる五、六年が、すぎ去ってしまうかもしれない。
君が横浜を出帆した日、銅鑼が鳴って、見送りに来た連中が、皆、梯子伝いに、船から波止場へおりると、僕はジョオンズといっしょになった。もっとも、さっき甲板ではちょいと姿を見かけたが、その後、君の船室へもサロンへも顔を出さなかったので、僕はもう帰ったのかと思っていた。ところが、先生、僕をつかまえると、大元気で、ここへ来るといつでも旅がしたくなるとか、己も来年かさ来年はアメリカへ行くとか、いろんなことを言う。僕はいいかげんな返事をしながら、はなはだ、煮切らない態度で、お相手をつとめていた。第一、ばかに暑い。それから、胃がしくしく、痛む。とうてい彼のしゃべる英語を、いちいち理解するほど、神経を緊張する気になれない。
そのうちに、船が動きだした。それも、はなはだ、緩慢な動き方で、船と波止場との間の水が少しずつ幅を広くしていくから、わかるようなものの、さもなければ、ほとんど、動いているとは受取れないくらいである。おまけに、この間の水なるものが、非常にきたない。わらくずやペンキ塗りの木の片が黄緑色に濁った水面を、一面におおっている。どうも、昔、森さんの「桟橋」とかいうもので読んだほど、小説らしくもなんともない。
芥川龍之介の他の作品
TRENDIA CLASSIC
内田百間氏
芥川龍之介
内田百間氏
芥川龍之介 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
剛才人と柔才人
と
芥川龍之介
剛才人と柔才人と
芥川龍之介 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
「支那游記」自
序
芥川龍之介
「支那游記」自序
芥川龍之介 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
「侏儒の言葉」
の序
芥川龍之介
「侏儒の言葉」の序
芥川龍之介 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
装幀に就いての
私の意見
芥川龍之介
装幀に就いての私の意見
芥川龍之介 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
出来上った人
芥川龍之介
出来上った人
芥川龍之介 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
夏目先生と滝田
さん
芥川龍之介
夏目先生と滝田さん
芥川龍之介 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
二人の紅毛畫家
芥川龍之介
二人の紅毛畫家
芥川龍之介 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
亦一説?
芥川龍之介
亦一説?
芥川龍之介 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
無題
芥川龍之介
無題
芥川龍之介 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
森先生
芥川龍之介
森先生
芥川龍之介 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
臘梅
芥川龍之介
臘梅
芥川龍之介 ・ 約1分