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TORENDIA

出帆

本文約2,500字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

横浜の波止場で、友人の成瀬が外国へ向かう船を見送る様子を描く。見送りの喧騒の中で、筆者はジョオンズという男と会話を交わしつつ、船上から万歳を繰り返す友人を見つめる。周囲には別れを惜しむ人々の涙が溢れ、対照的に甲板ではロシアの役者たちが陽気に歌を歌う。別れという切ない状況に身を置きながらも、冷めた心境を抱く筆者の視点を通して、出航までの光景と人間模様を綴る。

芥川龍之介

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🎧 出帆 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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成瀬君

君に別れてから、もう一月の余になる。早いものだ。この分では、存外容易に、君と僕らとを隔てる五、六年が、すぎ去ってしまうかもしれない。

君が横浜を出帆した日、銅鑼が鳴って、見送りに来た連中が、皆、梯子伝いに、船から波止場へおりると、僕はジョオンズといっしょになった。もっとも、さっき甲板ではちょいと姿を見かけたが、その後、君の船室へもサロンへも顔を出さなかったので、僕はもう帰ったのかと思っていた。ところが、先生、僕をつかまえると、大元気で、ここへ来るといつでも旅がしたくなるとか、己も来年かさ来年はアメリカへ行くとか、いろんなことを言う。僕はいいかげんな返事をしながら、はなはだ、煮切らない態度で、お相手をつとめていた。第一、ばかに暑い。それから、胃がしくしく、痛む。とうてい彼のしゃべる英語を、いちいち理解するほど、神経を緊張する気になれない。

そのうちに、船が動きだした。それも、はなはだ、緩慢な動き方で、船と波止場との間の水が少しずつ幅を広くしていくから、わかるようなものの、さもなければ、ほとんど、動いているとは受取れないくらいである。おまけに、この間の水なるものが、非常にきたない。わらくずやペンキ塗りの木の片が黄緑色に濁った水面を、一面におおっている。どうも、昔、森さんの「桟橋」とかいうもので読んだほど、小説らしくもなんともない。

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