おしゃれ童子
本文約6,000字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
幼少期から独特の美学に基づき、瀟洒で典雅な装いを追求し続けた一人の少年の半生を綴る。成長とともに洗練や奇抜さを求めて海軍士官や芝居の登場人物を模した服装を繰り返すが、時代や周囲の環境に翻弄され葛藤する。やがて左翼思想の台頭を経て心の暗黒時代を迎えるも、成人してなお困窮する生活の中で恋人に逢うために借衣をしてまで自身の美学を貫こうとする、不器用で哀しくも純粋なお洒落童子の姿を描く。
💰 この本を応援する(投げ銭)
子供のころから、お洒落のようでありました。小学校、毎年三月の修業式のときには必ず右総代として校長から賞品をいただくのであるが、その賞品を壇上の校長から手渡してもらおうと、壇の下から両手を差し出す。厳粛な瞬間である。その際、この子は何よりも、自分の差し出す両腕の恰好に、おのれの注意力の全部を集めているのです。絣の着物の下に純白のフランネルのシャツを着ているのですが、そのシャツが着物の袖口から、一寸ばかり覗き出て、シャツの白さが眼にしみて、いかにも自身が天使のように純潔に思われ、ひとり、うっとり心酔してしまうのでした。修業式のまえの晩、袴と晴着と、それから仕立おろしの白いフランネルのシャツとを、枕もとに並べて置いて寝て、なかなか眠れず、二度も三度も枕からそっと頭をもたげては、枕もとの品品を見ました。まだ、そのころはランプゆえ部屋は薄暗いものでしたが、それでもフランネルのシャツは、純白に光って、燃えているようでした。一夜明けて修業式の朝、起きて素早くシャツを着込み、あるときは、年とった女中に内緒にたのんで、シャツの袖口のボタンを、更に一つずつ多く縫いつけさせたこともありました。賞品をもらうときシャツの袖がちらと出て、貝のボタンが三つも四つも、きらきら光り輝くように企てたのでした。家を出て、学校へ行く途々も、こっそり両腕を前方へ差し出し、賞品をもらう真似をして、シャツの袖が、あまり多くもなく、少くもなく、ちょうどいい工合いに出るかどうか、なんどもなんども下検分してみるのでした。