渦巻ける烏の群
本文約16,900字 ・ 読了時間 約34分
あらすじ(AIが作成しました)
シベリアの寒村に駐屯する日本兵の松木、武石、吉永は、過酷な環境の中で困窮するロシア人の子供や住民と交流を重ねる。兵舎の閉塞感と戦争への疑念を抱える彼らは、温かな家庭の情味に飢え、雪の丘の向こうにある人々の生活に慰めを見出す。やがて中隊が移動し、雪解けの季節を迎える中、遠くの荒野に異様な烏の群れが渦巻く。その場所で、雪の中に埋もれ、無残な姿となった兵士たちの遺体が発見される。
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一
「アナタア、ザンパン、頂だい。」
子供達は青い眼を持っていた。そして、毛のすり切れてしまった破れ外套にくるまって、頭を襟の中に埋めるようにすくんでいた。娘もいた。少年もいた。靴が破れていた。そこへ、針のような雪がはみこんでいる。
松木は、防寒靴をはき、ズボンのポケットに両手を突きこんで、炊事場の入口に立っていた。
風に吹きつけられた雪が、窓硝子を押し破りそうに積りかかっていた。谷間の泉から湧き出る水は、その周囲に凍てついて、氷の岩が出来ていた。それが、丁度、地下から突き出て来るように、一昨日よりは昨日、昨日よりは今日の方がより高くもれ上って来た。彼は、やはり西伯利亜だと思った。氷が次第に地上にもれ上って来ることなどは、内地では見られない現象だ。
子供達は、言葉がうまく通じないなりに、松木に憐れみを求め、こびるような顔つきと態度とを五人が五人までしてみせた。
彼等が口にする「アナタア」には、露骨にこびたアクセントがあった。
「ザンパンない?」子供達は繰かえした。「……アナタア! 頂だい、頂だい!」
「あるよ。持って行け。」
松木は、残飯桶のふちを操って、それを入口の方へころばし出した。
そこには、中隊で食い残した麦飯が入っていた。パンの切れが放りこまれてあった。その上から、味噌汁の残りをぶちかけてあった。
子供達は、喜び、うめき声を出したりしながら、互いに手をかきむしり合って、携えて来た琺瑯引きの洗面器へ残飯をかきこんだ。
炊事場は、古い腐った漬物の臭いがした。それにバターと、南京袋の臭いがまざった。
調理台で、牛蒡を切っていた吉永が、南京袋の前掛けをかけたまま入口へやって来た。
武石は、ペーチカに白樺の薪を放りこんでいた。ペーチカの中で、白樺の皮が、火にパチパチはぜった。彼も入口へやって来た。
「コーリヤ。」
松木が云った。
「何?」
コーリヤは眼が鈴のように丸くって大きく、常にくるくる動めいている、そして顔にどっか尖ったところのある少年だった。
「ガーリヤはいるかね?」
「いるよ。」
「どうしてるんだ。」
「用をしてる。」
コーリヤは、その場で、汁につかったパン切れをむしゃむしゃ頬張っていた。