国境
本文約10,200字 ・ 読了時間 約21分
あらすじ(AIが作成しました)
ブラゴウエシチェンスクと黒河を隔てる黒竜江では、冬になると河が凍結し、対岸から密輸入者たちが贅沢品を運ぶ動きを見せる。警戒兵のワーシカは、社会主義建設が進む国境の守りとして、絹の靴下や化粧品を隠し持つ密輸入者たちと対峙する。かつては酒精などの持ち込みを画策した商人たちがいたが、やがてルーブル紙幣の暗黒売買が禁止されると、資本主義的な反動分子が入り込む隙は次第に失われていく。
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一
ブラゴウエシチェンスクと黒河を距てる黒竜江は、海ばかり眺めて、育った日本人には馬関と門司の間の海峡を見るような感じがした。二ツの市街が岸のはなで睨み合って対峙している。
河は、海峡よりはもっと広いひろがりをもって海のように豊潤に、悠々と国境を流れている。
対岸には、搾取のない生産と、新しい社会主義社会の建設と、労働者が、自分たちのための労働を、行いうる地球上たった一つのプロレタリアートの国があった。赤い布で髪をしばった若い女が、男のような活溌な足どりで歩いている。ポチカレオへ赤い貨車が動く。河のこちらは、支那領だ。
黒竜江は、どこまでも海のような豊潤さと、悠々さをたたえて、遠く、ザバイガル州と呼倫湖から、シベリアと支那との、国境をうねうねとうねり二千里に渡って流れていた。
十一月の初めだった。氷塊が流れ初めた。河面一面にせり合い、押し合い氷塊は、一度に放りこまれた塵芥のように、うようよと流れて行った。ある日、それが、ぴたりと動かなくなった。冬籠もりをした汽船は、水上にぬぎ忘れられた片足の下駄のように、氷に張り閉されてしまった。
舷側の水かきは、泥濘に踏みこんで、二進も三進も行かなくなった五光のようだった。つい、四五日前まで船に乗って渡っていた、その河の上を、二頭立の馬に引かれた馬車が、勢いよくがらがらと車輪を鳴らして走りだした。防寒服を着た支那人が通る。
サヴエート同盟の市街、ブラゴウエシチェンスクと、支那の市街黒河とを距てる「海峡」は、その日から埋められた。黒橇や、荷馬車や、徒歩の労働者が、きゅうに檻から放たれた家畜のように、自由に嬉々として、氷上を辷り、頻ぱんに対岸から対岸へ往き来した。
「今日は! タワーリシチ! 演説を傍聴さしてもらうぞ」
支那人、朝鮮人たち、労働者が、サヴエート同盟の土を踏むことをなつかしがりながら、大きな露西亜式の防寒靴をはいて街の倶楽部へ押しかけて行った。
十一月七日、一月二十一日には、労働者たちは、河を渡ってやって行く。三月八日には女たちがやって行く。
「僕、日本人、行ってもいいですか?」
「よろしい」