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TORENDIA

豚群

本文約7,100字 ・ 読了時間 約15分

あらすじ(AIが作成しました)

不作に苦しむ村の小作人たちは、地主による豚の差押えに対抗するため、豚を野に放って所有者を不明にする計画を立てる。健二や留吉ら多くの小作人が団結する一方で、地主と関わりのある一部の小作人は計画を裏切り、豚を隠し守ろうとする。役人が差押えに訪れると、野に放たれた豚群は混乱を引き起こし、役人たちを翻弄する。結果として、計画に従わなかった裏切者の豚は飢え死にし、計画を実行した小作人たちは豚を無事守り抜く。

黒島伝治

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🎧 豚群 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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一

牝豚は、紅く爛れた腹を汚れた床板の上に引きずりながら息苦しそうにのろのろ歩いていた。暫く歩き、餌を食うとさも疲れたように、麦藁を短く切った敷藁の上に行って横たわった。腹はぶってりふくれている。時々、その中で仔が動いているのが外から分る。だいぶ沢山仔を持っていそうだ。健二はじっと柵にもたれてそれを見ながら、こういうやつを野に追い放っても大丈夫かな、とそんなことを考えていた。溝にでも落ると石崖の角で腹が破れるだろう。そういうことになると、家の方で困るんだが……。

問題が解決するまで、これからなお一年かゝるか二年かゝるか分らないが、それまでともかく豚で生計を立てねばならなかった。豚と云っても馬鹿にはならない。三十貫の豚が一匹あればツブシに売って、一家が一カ月食って行く糧が出るのだ。

こゝ半年ばかり、健二は、親爺と二人で豚飼いばかりに専心していた。荷車で餌を買いに行ったり、小屋の掃除をしたり、交尾期が来ると、掛け合わして仔豚を作ることを考えたり、毎日、そんなことで日を暮した。おかげで彼の身体にまで豚の臭いがしみこんだ。風呂でいくら洗っても、その変な臭気は皮膚から抜けきらなかった。

もとは、小屋も小さく、頭数も少なくって、母が一人で世話をしていたものだった。親爺は主に畠へ行っていた。健二は、三里ほど向うの醤油屋街へ働きに出ていた。だが、小作料のことから、田畑は昨秋、収穫をしたきりで耕されず、雑草が蔓るまゝに放任されていた。谷間には、稲の切株が黒くなって、そのまゝ残っていた。部落一帯の田畑は殆んど耕されていなかった。小作人は、皆な豚飼いに早替りしていた。

たゞ、小作地以外に、自分の田畑を持っている者だけが、そこへ麦を蒔いていた。それが今では、三尺ばかりに伸びて穂をはらんでいる。谷間から丘にかけて一帯に耕地が固くなって荒れるがまゝにされている中に、その一隅の麦畑は青々と自分の出来ばえを誇っているようだった。

二

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