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TORENDIA

鴉片

本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

鴉片の煙が死人や墓を連想させることに着目し、クロオド・フアレエルの作品に描かれた罌粟栽培の描写と、兪の随筆に見られる鴉片の由来に関する支那の俗伝を紹介する。夢の中で地獄の官吏から鴉片が罪人の膏血から作られる劫であると告げられた賈慎庵の逸話などを通じ、鴉片が漂わせる死の気配や、東洋的な香気と死との結びつきを考察し、現代日本人が抱く墓の情景にも触れながら、鴉片に纏わる死の聯想について綴る。

芥川龍之介

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🎧 鴉片 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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クロオド・フアレエルの作品を始めて日本に紹介したのは多分堀口大学氏であらう。僕はもう六七年前に「三田文学」の為に同氏の訳した「キツネ」艦の話を覚えてゐる。

「キツネ」艦の話は勿論、フアレエルの作品に染みてゐるものは東洋の鴉片の煙である。僕はこの頃矢野目源一氏の訳した、やはりフアレエルの「静寂の外に」を読み、もう一度この煙に触れることになつた。尤もこの「静寂の外に」は芳しい鴉片の匂の外にも死人の匂をも漂はせてゐる。「ポオとボオドレエル」兄弟商会の造つた死人の匂をも漂はせてゐる。

「おや、聞えたぞ。いや、空耳だらう。己にはわからない。死人の土地から洩れて来るにしてはあんまり音が大き過ぎる。一体ここで物の割れる音なんかするわけがない。泥溜の中で棺桶が嚔をする。――一枚の板が揺ぶられる。頑丈な釘がうちつけてあるのを恐しい音をさせて軋ませる。……」

これはポオの「Premature Burial」が大西洋の彼岸に伝へた幾多の反響の一つである。が、そんなことはどうでも好い。僕にちよつと面白かつたのは下に引用する一節である。――

「ところで已に仏蘭西の土地で阿片を造らうとして失敗をつづけ乍らさまざまに苦心した。東京から持つて来た罌粟の種子を死骸で肥えた墓地に植ゑて見ると思ひの外に成績がよくてその特徴を発揮させることが出来た。今では、その毒汁で脹らんだ芥子坊主を切りさへすれば、望み通りに茶色の涙のやうなものがぼろぼろと滴り落ちて来る。……」

鴉片に死人を想はせるのはフアレエルの作品に始まつたのではない。僕はこの頃漫然と兪の「右台仙館筆記」を読んでゐるうちにかう云ふ俗伝は支那人の中にもあつたと云ふことを発見した。それは同書の中に掲げた「賈慎庵」の話に出合つたからである。

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