遺書
本文約3,000字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
獄中の著者が、死を目前にして恩師に宛てた書簡を収める。家族に対する葬儀や墓に関する具体的な指示を綴り、自らの行動の真意や妻子への想いを吐露する。過去に執筆された評論や記事とは異なる、自身の内面や時代への洞察を記した感想録の存在を明かし、生きる家族に向けて過去を捨て時代を見据えるよう訴えかける。国家の情勢や恩師への感謝を交えつつ、人間としての最期の心情と覚悟を赤裸々に伝える手記である。
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拝啓
昨日はおいそがしいところを貴重な時間を割き御引見下され有難う存じました。先生のいつに変らず御元気な御様子をまことに心強く存ぜられました。さてその際先生より私身、後のことについて御示唆がありましたので、遺言と申す程のことはありませんが、家内へ申し伝えたい言葉を先生までお伝え致しおき、小生死後先生よりお伝え願ったらいかがなものかと、ふと心付きましたのでこの手紙を認めました次第でございます。実はこれらのことは家内への手紙にも書きましたのですが、どういうものか家へその書信が到着しておりません。或いは事柄があまりに強く響き過ぎますため、家内のものへ与える衝撃を慮っての検閲者の親切心のためかとも存じますが、ともかく私としても気もちよく語れる事柄でもありませんが、用件には違いありませんから申し残したいと存じます。そんなわけでありますから、どうか先生から家内へお伝えの場合も、小生の死後にお願い致し度く存じます。
一、小生屍体引取りの際は、どうせ大往生ではありませんから、死顔など見ないでほしいということ、楊子はその場合連れて来ないこと。
一、屍体は直ちに火葬場に運ぶこと、なるべく小さな骨壺に入れ家に持参し神棚へでもおいておくこと。
一、乏しい所持金のうちから墓地を買うことなど断じて無用たるべきこと。勿論葬式告別式等一切不用のこと(要するに、私としては英子や楊子、並びに真に私を知ってくれる友人達の記憶の中に生き得ればそれで満足なので、形の上で跡をとどめることは少しも望んでおりません)。