TRENDIA CLASSIC

更級日記など

堀辰雄

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御質問にお答へするほど、日本の古典をよく讀んでゐませんので大變困りましたが、

一、僅かに讀んだものの中では、「更級日記」などが隨分好きです。理由と云つても別にありませんが、彼女の小さな夢を彼女なりに切實に生きたらしい、この「更級日記」の作者などが、何となく僕には血縁のあるやうな氣がするからです。

一、僕がそれから影響を受けたやうなものはまだ日本の古典の中にはありさうもありません。「源氏物語」などが樂にすらすら讀めるやうになつたら、或ひは大いに僕など影響を受けるやうになるかも知れません。しかし、生來註釋書などを讀むことは大嫌ひなので、いつになつたら讀めるやうになるのだか自分にも分りません。聞けば、谷崎さんが「源氏物語」の現代語譯を試みられていらつしやるとか、大いに期待してゐます。これは人の話などを聞いたり、その梗概を讀んだりして空想してゐるのですが「若菜」の卷のあたり、それから「宇治十帖」などは隨分好きになれさうです。前半よりもずつと。そこに出てくる柏木とか、薫大將とかは、光源氏なぞより僕には親しみ深いやうな氣がされます。それから「窄き門」のアリサを彷彿せしめるやうな女性なども出てくるからです。そのうちにゆつくり讀んで、ラジィゲが「舞踏會」をマダム・ド・ラファイエットの「クレエヴ公夫人」の影響の下に書いたやうに、僕も古雅な味はひのある小説を書いて見たいものです。

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