TRENDIA CLASSIC
鎮魂歌
原民喜
1 / 38
美しい言葉や念想が殆ど絶え間なく流れてゆく。深い空の雲のきれ目から湧いて出てこちらに飛込んでゆく。僕はもう何年間眠らなかったのかしら。僕の眼は突張って僕の唇は乾いている。息をするのもひだるいような、このふらふらの空間は、ここもたしかに宇宙のなかなのだろうか。かすかに僕のなかには宇宙に存在するものなら大概ありそうな気がしてくる。だから僕が何年間も眠らないでいることも宇宙に存在するかすかな出来事のような気がする。僕は人間というものをどのように考えているのか、そんなことをあんまり考えているうちに僕はとうとう眠れなくなったようだ。僕の眼は突張って僕の唇は乾いている、息をするのもひだるいような、このふらふらの空間は……。
僕は気をはっきりと持ちたい。僕は僕をはっきりとたしかめたい。僕の胃袋に一粒の米粒もなかったとき、僕の胃袋は透きとおって、青葉の坂路を歩くひょろひょろの僕が見えていた。あのとき僕はあれを人間だとおもった。自分のために生きるな、死んだ人たちの嘆きのためにだけ生きよ、僕は自分に操返し操返し云いきかせた。それは僕の息づかいや涙と同じようになっていた。僕の眼の奥に涙が溜ったとき焼跡は優しくふるえて霧に覆われた。僕は霧の彼方の空にお前を見たとおもった。僕は歩いた。僕の足は僕を支えた。人間の足。驚くべきは人間の足なのだ。廃墟にむかって、ぞろぞろと人間の足は歩いた。その足は人間を支えて、人間はたえず何かを持運んだ。少しずつ、少しずつ人間は人間の家を建てて行った。
原民喜の他の作品
TRENDIA CLASSIC
絵にそへて
原民喜
絵にそへて
原民喜 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
渚
原民喜
渚
原民喜 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
青空の梯子
原民喜
青空の梯子
原民喜
TRENDIA CLASSIC
悪夢
原民喜
悪夢
原民喜
TRENDIA CLASSIC
アトモス
原民喜
アトモス
原民喜
TRENDIA CLASSIC
秋日記
原民喜
秋日記
原民喜
TRENDIA CLASSIC
ある時刻
原民喜
ある時刻
原民喜
TRENDIA CLASSIC
ある手紙
原民喜
ある手紙
原民喜
TRENDIA CLASSIC
飯田橋駅
原民喜
飯田橋駅
原民喜
TRENDIA CLASSIC
遺書
原民喜
遺書
原民喜
TRENDIA CLASSIC
淡雪
原民喜
淡雪
原民喜
TRENDIA CLASSIC
椅子と電車
原民喜
椅子と電車
原民喜