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TORENDIA

ある手紙

本文約3,300字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

佐々木基一へ宛てた手紙において、戦後の社会状況と文学への期待を綴る。広島での被災と終戦を経て、新しい人間を求める気持ちを抱き上京した体験、また『近代文学』を中心に展開される近年の作家や作品への評価を記す。執筆者は、野間宏や埴谷雄高等が織りなす新しい小説世界への賛辞を送りつつ、自身の極限的な生活状況と向き合いながら、作家として独自の結晶を追い求める祈りのような切実な心境を吐露する。

原民喜

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🎧 ある手紙 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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佐々木基一様

御手紙なつかしく拝見しました。あなたから手紙をいただいたり、そのまた御返事をこうして書くのも、思えばほんとに久振りです。空襲の激しかった頃には私はよくあなたやほかの友人に、いつ着くかあてもない手紙を、何の意味もない手紙を、重たい気分で、しかも書かないではいられない気持に駆られて書いたものです。が、今こうしてペンを執ってみると、ふと何となしにそんな奇妙な気分がするのはどうしたことなのでしょう。

私ははじめて『近代文学』第一号を手にした日のことを思い出します。当時、広島で罹災して、寒村の農家の二階で飢えていた私は、むさぼるようにあの雑誌にとびつき、ひどく興奮したものです。久しい間、ああしたものに飢えていた所為もあったでしょう。しかしまたそれにはそれで人を感激さすだけのものがあったようです。たしかにこれは新しい文学運動の中心になるだろう、そんな風な予想からあの雑誌の順調な発展を祈らないではいられませんでした。その後、あなたたちの雑誌は多くの困難を克服しながら、みごとな発展を遂げています。『よくも揃いも揃って優秀なメンバーを集めたものだ』など世間の噂をきくたびに私は何となくうれしいのですが、終戦以来今日に到る迄の混乱と虚脱のなかにあって、つぎつぎに生彩ある問題を提起し検討してゆく、あなたたちの精力と速度、それから、現象にひきずり廻されない確固たる立場にとくべつ感心するものです。

私は広島の惨劇を体験し、次いで終戦の日を迎えると、その頃から猛然として人間に対する興味と期待が湧き上りました。『新しい人間が生れつつある、それを見るのはたのしいことだ』東京の友人、長光太からそんな便りをもらうと、矢も楯もたまらず無理矢理に私は東京へ出てまいりました。

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