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TORENDIA

ある時刻

本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

病床にある語り手が、昼の雨や夕暮れの空、夢の中に現れる老婆や星の光など、日々の移ろいとともに自身の内面に去来する幻影や哀切を綴る。病の熱に浮かされ、窓の外の梢や枯木、雪の降る景色を眺めながら、うつろいゆく時間の呼吸を全身に感じ取る。本作は、死の影や孤独が潜む日々の刹那的な情景を、繊細な詩的感性で描き出し、祈りのような静謐な心象風景を書き留める随筆集である。

原民喜

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🎧 ある時刻 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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昼

わたしは熱があつて睡つてゐた。庭にザアザアと雨が降つてゐる真昼。しきりに虚しいものが私の中をくぐり抜け、いくらくぐり抜けても、それはわたしの体を追つて来た。かすかな悶えのなかに何とも知れぬ安らかさがあつた。雨の降つてゐる庭がそのまゝ私の魂となつてゐるやうな、ふしぎな時であつた。私はうつうつと祈つてゐるのだつた。

夕

わたしはあそこの空に見とれてゐる。今の今、簷近くの空が不思議と美しい。一日中濁つた空であつたのが、ふと夕ぐれほんの一ところ、かすかな光をおび、淡い青につゝまれてゐる。病み呆けたはての空であらうか。幻の道のゆくてであらうか。あやしくもかなしい心をそゝるのである。

あけがた

あけがたになつて見るさまざまの夢。私は人から責められてひどく弱つてゐる。夢の中で私を責める人は私がひどく弱つてゐるゆゑなほ苛まうとするらしい。夢のなかゆゑ、かうも心は細るのに、暗い雨のなかをつきぬけてその人はやつて来る。

昼すぎ

朝はたのしさうに囀つてゐた小鳥が昼すぎになると少し疲れ気味になつてゐる。昼すぎになると、夕方のけはひがする。ものうい心に熱のくるめき。

浮寝鳥

冷え冷えとしたなかに横はつて、まだはつきりと目のさめきらないこのかなしさ。おまへのからだのなかにはかぎりない夢幻がきれぎれにただよつてゐて、さびれた池の淡い日だまりに、そのぬくもりにとりすがつてゐる。

梢

散り残つた銀杏の葉が、それがふと見える窓が、昼のかすかなざわめきに悶えてゐる姿が、わたしが見たのか、むかふの方からわたしを見てゐるのか、はつきりしないのだが、たしかに透きとほつたものゝ隙間が、ひつそりとすぎてゆく夢のやうに。

径

逃げて行つた秋のはばたきが、叢と木立の奥に消えてゆく径の方に、鋭い叫びを残して。

枯野

薄の穂の白い光があとからあとから見えては消え、消えては見え、真昼ではありながら、まよなかの夢のさけびを。

星

星が私の額を突き刺した。その光は私の心臓に喰入り、夜毎、怪異な夢魔となつた。私が魔ものに追駆けられてゐる時、天上の星も脅えきつてゐた。呪はれの夜があけてゆく時、消えのこる星がしづかに頷いたものだ。

暁

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