TRENDIA CLASSIC
惨事のあと
素木しづ
1 / 15
一
楯井夫婦が、ようやく未墾地開墾願の許可を得て、其処へ引移るとすぐ、堀立小屋を建てゝ子供と都合五人の家族が、落著いた。と間もなく此の家族が四ヶ月あまりも世話になっていた、遠い親類にあたる、その地では一寸した暮しをしていた山崎という農家の、若い嫁と生れて間もない子供と、子供を背負うてかけつけて来た子守女と、その家の老人と四人が惨殺されたという知らせをうけた。
そこは、楯井夫婦が引移った未墾地から、約二里隔った天塩川の沿岸の、やはり新開地である。五六年後には、稚内へ通ずる汽車の工事が始まるというので、第一回目の測量がすむと、もう停車場が此所へ建つの、あすこへ建つのという噂で、気の早い連中はもう自分だちの勝手ぎめで、どしどし家を建て出した。家と云った所で、大抵柾造りのひくい家で、雪の多い北海道の山奥には、どうかすると心細いほど粗末なものである。
ぼつ/\と人が入り込んでから、まだ三四年とたゝないこの山奥の未開地に、警察等の手は届かなかった。郵便局も役場も学校なども、かれこれ七八里の山道を行かねばならないのであった。それに道もようやく、山道を切り開いた所や熊笹を刈ったあとの、とげ/\した荒れた道である。
楯井さんは、此の知らせを受けて、妻と三人の子供を残して兎に角すぐに出かけた。彼は、非常に驚いたけれども、なんとなく信ずることが出来なかった。そんなはずが、けっしてないような気がしてならなかった。彼は、そんな事が、決して世の中にありうることではないと思っていたのではなくて、唯この山奥の新開地に、そんな事をする人がいようとは、どうしても思われなかったのである。
楯井さんは、自分の住んでいるこの山奥を、何という安らかな、そしてなつかしい所だろうと、いつも考えているのであった。
素木しづの他の作品
TRENDIA CLASSIC
秋は淋しい
素木しづ
秋は淋しい
素木しづ
TRENDIA CLASSIC
青白き夢
素木しづ
青白き夢
素木しづ
TRENDIA CLASSIC
嫂
素木しづ
嫂
素木しづ
TRENDIA CLASSIC
幸福への道
素木しづ
幸福への道
素木しづ
TRENDIA CLASSIC
かなしみの日よ
り
素木しづ
かなしみの日より
素木しづ
TRENDIA CLASSIC
咲いてゆく花
素木しづ
咲いてゆく花
素木しづ
TRENDIA CLASSIC
追憶
素木しづ
追憶
素木しづ
TRENDIA CLASSIC
晩餐
素木しづ
晩餐
素木しづ
TRENDIA CLASSIC
珠
素木しづ
珠
素木しづ
TRENDIA CLASSIC
雛鳥の夢
素木しづ
雛鳥の夢
素木しづ