惨事のあと
本文約11,200字 ・ 読了時間 約23分
あらすじ(AIが作成しました)
北海道の未墾地へ移住した楯井夫婦は、遠い親類の山崎一家が惨殺されたという知らせを受ける。現場へ向かった夫は、凄惨な死体と対面し衝撃を受ける。その後、平穏な開墾生活を送る一家の前に、殺された嫁の姿が突如として現れる。現実と幻影の狭間で困惑と不安を抱えた夫は、因果を感じていた山崎の嫁の墓参りを決意し、自らの内面的な葛藤と向き合う様子を描く。
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一
楯井夫婦が、ようやく未墾地開墾願の許可を得て、其処へ引移るとすぐ、堀立小屋を建てゝ子供と都合五人の家族が、落著いた。と間もなく此の家族が四ヶ月あまりも世話になっていた、遠い親類にあたる、その地では一寸した暮しをしていた山崎という農家の、若い嫁と生れて間もない子供と、子供を背負うてかけつけて来た子守女と、その家の老人と四人が惨殺されたという知らせをうけた。
そこは、楯井夫婦が引移った未墾地から、約二里隔った天塩川の沿岸の、やはり新開地である。五六年後には、稚内へ通ずる汽車の工事が始まるというので、第一回目の測量がすむと、もう停車場が此所へ建つの、あすこへ建つのという噂で、気の早い連中はもう自分だちの勝手ぎめで、どしどし家を建て出した。家と云った所で、大抵柾造りのひくい家で、雪の多い北海道の山奥には、どうかすると心細いほど粗末なものである。
ぼつ/\と人が入り込んでから、まだ三四年とたゝないこの山奥の未開地に、警察等の手は届かなかった。郵便局も役場も学校なども、かれこれ七八里の山道を行かねばならないのであった。それに道もようやく、山道を切り開いた所や熊笹を刈ったあとの、とげ/\した荒れた道である。
楯井さんは、此の知らせを受けて、妻と三人の子供を残して兎に角すぐに出かけた。彼は、非常に驚いたけれども、なんとなく信ずることが出来なかった。そんなはずが、けっしてないような気がしてならなかった。彼は、そんな事が、決して世の中にありうることではないと思っていたのではなくて、唯この山奥の新開地に、そんな事をする人がいようとは、どうしても思われなかったのである。
楯井さんは、自分の住んでいるこの山奥を、何という安らかな、そしてなつかしい所だろうと、いつも考えているのであった。