TORENDIA
春の上河内へ
板倉勝宣
TORENDIA
春の上河内へ
本文約5,000字 ・ 読了時間 約11分
あらすじ(AIが作成しました)
大正八年三月、信濃鉄道で穂高を訪れた著者は、案内人や人夫らと共に、雪に覆われた山々を目指す旅に出る。常念乗越や槍沢など、厳冬の北アルプスをスキーで踏破しようと試みる一行の姿を描く。天候の変化や雪の状態に左右されながらも、静寂に包まれた冬の自然を享受し、山中での生活や移動を通じて、真冬の雪山が織りなす荘厳な景色と過酷な環境を克明に記録した紀行文である。
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大正八年三月二十一日。信濃鉄道にゆられながら、重いリュックサックを背負ったまま腰をかけて、顎の下にアルペンストックをかって、反対側の窓の中に刻々に移って行く真白な雪の山々を眺めていると、雪の山の不可抗な吸引力は、ジットしていられないほど強くなった。しかし夜行できた寝不足の身体は、今日山に入ることを拒んでいる。はやる心を抑えつつ穂高駅に下車した。迎えにきてくれた寺島寅吉老人と春にしては暖かすぎる田圃道を牧に向かった。常念、蝶ガ岳が雪を浴びた下に、平たくこんもり茂った浅川山を背後に、牧の愛らしい村が点々と見える。スキーを肩に、リュックサックの重みを感じながら汗の流れる身体を寺島方に着いた。水車がめぐっている。昼飯をすましてから、案内の永田小十郎がきたので、万事相談の上明朝出発と定め、小十の外に寺島政太郎、渡辺虎十の二人がきてくれることになった。