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TORENDIA

春の槍から帰って

本文約3,600字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

穂高村から出発し、春の山肌や雪に覆われた槍ヶ岳の厳しい登攀の様子を綴る。雪崩の危険や氷化した斜面での技術的な困難といった春山特有の環境に触れつつ、雪中登山における雪崩対策、人夫の重要性、スキーとカンジキの併用、夜営の心得、吹雪への備えなど、実体験に基づいた留意点を具体的に論じる。本書は、当時の雪中登山の現状を伝えつつ、将来的な進歩を期待して執筆された記録である。

板倉勝宣

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🎧 春の槍から帰って / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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白馬、常念、蝶の真白い山々を背負った穂高村にも春が一ぱいにやってきた。あんずの花が目覚めるように咲いた百姓屋の背景に、白馬岳の姿が薄雲の中に、高くそびえて、雪が日に輝いて谷の陰影が胸のすくほど気持ちよく拝める。

乾いた田圃には、鶏の一群が餌をあさっている。水車の音と籾をひく臼の音が春の空気に閉ざされて、平和な気分がいたるところに漲っていた。

一歩を踏み出して烏川の谷に入ると、もう雪が出てくる。しかし岩はぜの花の香が鼻をつき、駒鳥の声を聞くと、この雪が今にもとけて行きそうに思う。しかしやがて常念の急な谷を登って乗越に出ると、もう春の気持ちは遠く去ってしまう。雪の上に頭だけ出したはい松の上を渡って行くと、小屋の屋根が、やっと雪の上に出ている。夕日は、槍の後に沈もうとして穂高の雪がちょっと光る。寒い風が吹いてきて焚木をきる手がこごえてくる。軒から小屋にはいこんで、雪の穴に火を焚きながら吹雪の一夜を明かすと、春はまったくかげをひそめた。槍沢の小屋の屋根に八尺の雪をはかり、槍沢の恐ろしい雪崩の跡を歩いて、槍のピークへロープとアックスとアイスクリーパーでかじりついた時には、春なのか夏なのか、さっぱり分らなくなった。けれども再び上高地に下りて行くと、柳が芽をふいて、鶯の声がのどかにひびいてきた。温泉に入って、雪から起き上った熊笹と流れに泳ぐイワナを見た時に再び春にあった心地がした。

春の山は、雪が頑張ってはいるけれど、下から命に溢れた力がうごめいているのがわかる。いたるところに力がみちている。空気は澄んで、山は見え過ぎるほど明らかに眺めることができる。夏の山より人くさくないのが何よりすきだ。これからあの辺の春の山歩きについて気のついたことを書いて見る。まず槍のピークについていわねばならない。

槍沢の雪崩は想像以上に恐ろしい。どうしても雪崩の前に行かねば危険でもあるし時間も損をする。

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