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TORENDIA

田舎の新春

本文約2,000字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

都会とは異なる旧暦による田舎の正月を取り上げ、廃れゆく風習の数々を綴る。三ヶ日の節倹的な餅の食べ方や、農事始めの「鍬入り」で行われる烏への供養、七草粥を調理する際に歌う唄のリズム、楮の皮剥ぎに興じる子供たちの様子から、鎌倉時代の遺風を伝える「鳥追い」の行事まで、土地に根付く素朴で独特な営みを記録する。現代では失われつつある、先人の知恵や生活の知恵が息づく季節の情景を鮮明に描き出す。

横瀬夜雨

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🎧 田舎の新春 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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田舍の正月は今でも舊だから都會の正月より一月以上後れる。田舍だけに都會人の知らない面白い正月行事があるのだが、年と共に頽れてゆくのもあるから、その三四を抄録してみやう。

三ヶ日の珍風習

舊正月の三日間、餅を搗いてもをつくらぬ家がある。いかなる理由であるか明瞭ではないけれど、その三日間餅を納豆や鹽鮭で喰べ、四日目に至つてはじめてをつくる。所謂「家風」であるが,おそらく昔の貧困時代をしのぶ、年のはじめの節儉の覺悟でもあらうか。即ち贅澤と思惟されてゐた砂糖を絶つのである。

その一例に、或る家では(今相當の資産家なのだが)三日間その家の主人が、尾籠な話ではあるが下便所へいつて、鹽黄粉で餅を喰べるのである。御念の入つた事には紺の仕事股引をはき簑を着、しかも跣で。

これによつて推察すれば、昔の貧窮時代簑を着たまま正月の餅を食はねばならなかつたので、現在生活が樂になつても治にゐて亂を忘れずといふ律義な農民の心が、かかる家風をつくつたのであらう。

百姓の御馳走といつても、野菜料理に數の子鹽鮭位である。師走の暮れには鹽鮭を藁つとにして親類や知己に贈る。その時鮭の尻尾のところに屹度藁草履のかはりに銀貨や白銅のおひねりをつけたりもする。この鹽鮭が大抵御正月の御馳走になるのだ。

鹽鮭の昆布卷は、田舍の正月料理のうちでうまいものの一つである。昆布の眞ん中を藁みごでくくるのも甚だ野趣があつていゝ。それからあの頭を細かにきつて酢漬にする。子供の時あの軟骨をかり/\喰べるのが好きだつた。

鍬入り

四日は鍬入り、即ち農のはじめだ。畑に入る式をする。大豆と賽の目にきつた餅と昆布とを四方の隅をひねりあげた和紙の器にいれて、畑へ持つてゆき、鍬で一寸麥畑をさくつて門松の一枝をし、そこへ供へる。畑に供へるのだが、その時大聲をあげて、

からあす、からすからす

と山の烏を呼ぶ。

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