リチャード・バートン訳「一千一夜物語」に就いて
本文約4,500字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
リチャード・バートンによる英訳「一千一夜物語」について論じる。先人たちの不完全な訳本や欧羅巴での受容状況に触れ、バートンが過酷な環境下で執筆に至った経緯を綴る。同書の成立過程や出版時の苦難を辿りつつ、原作に忠実な訳文や東洋の風俗を精密に考証した脚註の意義を解説する。キリスト教的な道徳に縛られず、異文化を大胆かつ率直に提示するその翻訳の姿勢を、独自の価値を持つ学術資料として位置づける。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一
リチヤアド・バアトン(Richard Burton)の訳した「一千一夜物語」――アラビヤン・ナイツは、今日まで出てゐる英訳中で先づ一番完全に近いものであるとせられてゐる。勿論、バアトン以前に出た訳本も数あつて、一々挙げる遑も無い程であるが、先づ「一千一夜物語」を欧羅巴に紹介した最初の訳本は一七〇四年に出たアントアン・ガラン(Antoine Galland)教授の仏訳本である。これは勿論完訳ではない。ただ甚だ愛誦するに足る抄訳本と云ふ位のものである。ガラン以後にも手近い所でフオスタア(Foster)だとかブツセイ(Bussey)だとかいろいろ訳本の無い訣ではない。併し何れも訳語や文体は仏蘭西臭味を漂はせた、まづ少年読物と云ふ水準を越えないものばかりである。
ガラン教授から一世紀の後――即ち一八〇〇年以後の主なる訳者を列挙して見ると、大体下の通りである。
1. Dr. Jonathan Scott. (1800)
2. Edward Wortley. (1811)
3. Henry Torrens. (1838)
4. Edward William Lane. (1839)
5. John Pane. (1885)
トレンズの訳本は、在来のもののやうに英仏臭味を帯びないもので、其の点では一歩を進めたものであるが、訳者が十分原語に通暁してゐなかつたし、殊に埃及やシリヤの方言などを全く知らなかつた為に、憾むらくは所期の点に達し得なかつた。而も十分の一位で中絶して居るのは、甚だ惜むべきことである。