TRENDIA CLASSIC

変遷その他

芥川龍之介

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変遷

万法の流転を信ずる僕と雖も、目前に世態の変遷を見ては多少の感慨なきを得ない。現にいつか垣の外に「茄子の苗や胡瓜の苗、……ヂギタリスの苗や高山植物の苗」と言ふ苗売りの声を聞いた時にはしみじみ時好の移つたことを感じた。が、更に驚いたのはこの頃ふと架上の書を縁側の日の光に曝した時である。僕は従来衣魚と言ふ虫は決して和本や唐本以外に食はぬものと信じてゐた。けれども千九百二十五年の衣魚は舶来本の背などにも穴をあけてゐる。僕はこの衣魚の跡を眺めた時に進化論を思ひ、ラマルクを思ひ、日本文化の上に起つた維新以後六十年の変遷を思つた。三十世紀の衣魚はことによると、樟脳やナフタリンも食ふかも知れない。

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