TRENDIA CLASSIC

創作

芥川龍之介

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僕に小説をかけと云ふのかね。書けるのなら、とうに書いてゐるさ。が、書けない。遺憾ながら、職業に逐はれてペンをとる暇がない。そこで、人に話す、その人が、それを小説に書く。僕が材料を提供した小説が、これで十や二十はあるだらう。勿論、有名なる作家の作品でね。唯、君に注意して置きたいのは、僕の提供する材料が、大部分は、僕の創作だと云ふ事だよ。勿論、これは、今まで、人に話した事はない。さう云ふと、誰も、僕の話を聞いて、小説にする奴がないからね。僕は、何時でも、小説らしい事実を想像でつくり上げて、それを僕の友だちの小説家に、ほんたうらしく話してやる。すると、それが旬日ならずして、小説になる。自分が小説を書くのも、同じ事さ。唯、技巧が、多くの場合、全然僕の気に入らないがね、それは、まあ仕方がないさ。

尤も、ほんたうらしく見せかけるのには、いろんな条件が必要だよ。僕自身、僕の小説の主人公になる事もある。或は、僕の友だちの夫婦関係を粉本に、ちよいと借用する事もある。が、決して、モデル問題は起らない。起らない筈さ。モデル自身は、実際、僕の提供する材料のやうな事をしてはゐないんだし、僕の友だちの小説家も、それが姦通とか、竊盗とか、シリアスな事になればなる程、徳義上、モデルの名は出さないからね。そこで、その小説が活字になる。作家は原稿料を貰ふ。どうかすると、僕をよんで、一杯やらうと云ふやうな事になる。実は、僕の方が、作家に礼をすべき筈なのだが、向ふで、嬉しがつて、するのだからさせて置くのさ。

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