蛙
本文約1,400字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
芦や蒲が茂る静かな池で、多くの蛙が声を上げている。その中の一匹は、大学教授のような態度で、自然界の森羅万象すべてが蛙のために存在し、神が蛙のために宇宙を創造したと雄弁に説く。しかし、その主張の最中に現れた蛇が、演説する蛙を口にくわえて芦の中へと消えてしまう。突然の出来事に混乱する蛙たちの間で、若者が蛇の存在を問いかけると、別の老いた蛙が、蛇さえも蛙の繁栄のために存在すると神学的な解釈で諭す様子を描く。
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自分の今寝ころんでゐる側に、古い池があつて、そこに蛙が沢山ゐる。
池のまはりには、一面に芦や蒲が茂つてゐる。その芦や蒲の向うには、背の高い白楊の並木が、品よく風に戦いでゐる。その又向うには、静な夏の空があつて、そこには何時も細い、硝子のかけのやうな雲が光つてゐる。さうしてそれらが皆、実際よりも遙に美しく、池の水に映つてゐる。
蛙はその池の中で、永い一日を飽きず、ころろ、かららと鳴きくらしてゐる。ちよいと聞くと、それが唯ころろ、かららとしか聞えない。が、実は盛に議論を闘してゐるのである。蛙が口をきくのは、何もイソツプの時代ばかりと限つてゐる訳ではない。
中でも芦の葉の上にゐる蛙は、大学教授のやうな態度でこんなことを云つた。
「水は何の為にあるか。我々蛙の泳ぐ為にあるのである。虫は何の為にゐるか。我々蛙の食ふ為にゐるのである。」
「ヒヤア、ヒヤア」と、池中の蛙が声をかけた。空と艸木との映つた池の水面が、殆埋る位な蛙だから、賛成の声も勿論大したものである。丁度その時、白楊の根元に眠つてゐた蛇は、このやかましいころろ、かららの声で眼をさました。さうして、鎌首をもたげながら、池の方へ眼をやつて、まだ眠むさうに舌なめづりをした。
「土は何の為にあるか。艸木を生やす為にあるのである。では、艸木は何の為にあるか。我々蛙に影を与へる為にあるのである。従つて、全大地は我々蛙の為にあるのではないか。」
「ヒヤア、ヒヤア。」
蛇は、二度目の賛成の声を聞くと、急に体を鞭のやうにぴんとさせた。それから、そろそろ芦の中へ這ひこみながら、黒い眼をかがやかせて、注意深く池の中の様子を窺つた。
芦の葉の上の蛙は、依然として、大きな口をあけながら、辯じてゐる。