南瓜
本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
吉原の太鼓持・市兵衛は、芸のない洒落者として周囲から軽んじられ、真面目な心情さえも冗談として笑い飛ばされてきた。ある夜、思いを寄せる薄雲太夫に茶化されたうえ、成金の客から執拗な挑発を受けた市兵衛は、極度の緊張と不満の中でハムレットの台詞を引用しながら、突如として凶行に及ぶ。本作は、常に冗談を求められる男が、真実を理解されない苦しみから事件を引き起こすまでの経緯を描く。
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何しろ南瓜が人を殺す世の中なんだから、驚くよ。どう見たつて、あいつがそんな大それた真似をしようなんぞとは思はれないぢやないか。なにほんものの南瓜か? 冗談云つちやいけない。南瓜は綽号だよ。南瓜の市兵衛と云つてね。吉原ぢや下つぱの――と云ふよりや、まるで数にはいつてゐない太鼓持なんだ。
そんな事を聞く位ぢや、君はあいつを見た事がないんだらう。そりや惜しい事をしたね。もう今ぢや赤い着物を着てゐるだらうから、見たいつたつて、ちよいとは見られるもんぢやない。頭でつかちの一寸法師見たいなやつでね、夫がフロツクに緋天鳶絨のチヨツキと云ふ拵へなんだから、ふるつてゐたよ。おまけにその鉢の開いた頭へちよんと髷をのつけてゐるんだ。それも粋な由兵衛奴か何かでね。だから君、始めて遇つたお客は誰でもまあ毒気をぬかれる。すると南瓜のやつは、扇子で一つその鉢の開いた頭をぽんとやつて、「どうでげす。新技巧派の太鼓持もたまには又乙でげせう」つて云ふんだ。悪い洒落さね。
洒落と云へば、南瓜にや何一つ芸らしい芸がない。唯お客をつかまへて、洒落放題洒落る丈なんだ。それが又「にはかに洒落られません」つて程にも行かないんだから[#「行かないんだから」は底本では「行かないんだから」]、心細いやね。尤もそこはお客もお客で曲りなりにも洒落のめせば、それでもう多曖なく笑つてゐる。云はば洒落のわかつたのが、うれしくつてたまらないと云ふ連中ばかりなんだ。