動物園
本文約3,300字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
動物園に展示されている様々な動物を観察した作者が、それぞれの外見や生態から抱いた独自の空想や、それらに重ね合わせた文学的、芸術的な情景を綴る。象の鼻の由来や猿の表情といった細部から、古今の絵画、伝説、あるいは自身の経験を連想し、檻の中の生き物たちに対して個人的な問いかけや諧謔に満ちた語りかけを行う。人間社会の縮図とも捉えられる動物たちの姿を通じ、観察者の内面にある思索や美意識が断片的に描き出される短編集である。
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象
象よ。キツプリングは昔お前の先祖が、鰐に鼻を啣へられたものだから、未だにお前まで長い鼻をぶら下げて歩いてゐると云つた。が、おれにはどうしても、あいつの云ふ事が信用出来ない。お前の先祖は仏陀御在世の時分、きつとガンヂス河の燈心草の中で、昼寝か何かしてゐたのだ。すると河の泥に隠れてゐた、途方もなく大きな蛭が、その頃はまだ短かつた、お前の先祖の鼻の先へ、吸ひついてしまつたのに違ひない。さもなければお前の鼻が、これ程大きな蛭のやうに、伸びたり縮んだりはしないだらう。象よ。お前は印度の名門の生れだ。どうかおれの云つた通り、あのキツプリングの説などは口から出放題の大法螺だと、先祖の寃を雪ぐ為に、一度でも好いからその鼻をあげて、喇叭のやうな声を轟かせてくれ。
鸛の鳥
あの頸をさ、襟飾のやうに結んでしまつたら、一体あいつはどうしてほどく気なんだらう。
駱駝
お爺さん。もう万年青の御手入はおすみですか。ではまあ一服おやりなさい。おや、あの菖蒲革の莨入は、どこへ忘れて御出でなすつた?
虎
虎よ。お前はコスモポリタンだ。豊干禅師を乗せたお前。和唐内に搏たれたお前。それからウイルヤム・ブレエクの有名な詩に歌はれたお前。虎よ。お前は最大のコスモポリタンだ。
家鴨
子供が黒板へ白墨で悪戯に書いた算用数字。2、2、2、2、2、2。
白孔雀
これは年とつた貴婦人だ。お眼が少し赤く爛れていらつしやる。鼈甲の柄のついた眼鏡を持つて、一々見物人を御覧になれば好い。
大蝙蝠
お前の翼は仁木弾正の鬢だ。面明りの蝋燭位は、一煽りにも消し兼ねない。さうしたら、鼻の尖つた、眼張りの強い、脣をへの字に曲げてゐる顔が、うす暗い雲母摺を後にして、愈気味悪く浮き上るだらう。落款は東洲斎写楽……
カンガルウ
腹の袋の中には子供が一匹はひつてゐる。あれを出してしまつても、まだ英吉利の国旗か何かが、手品のやうに出て来はしないか。
鸚哥
お前は古い唐画の桃の枝に、ぢつと止つてゐるが好い。うつかり羽搏きでもしようものなら、体の絵の具が剥げてしまふから。
猿